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「白川流決定会合の進め方」

朝方、12月2日の臨時の金融政策決定会合と、利下げが実施された12月18・19日分の日銀金融政策決定会合のそれぞれの議事要旨が発表された。注目したいのは、19日の利下げへの議論である。

「金融経済情勢に関する検討」を踏まえ、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針について、議論が行われた。一人の委員は、現在の政策金利の水準は既に極めて緩和的であり、0.1% への利下げは、景気刺激策としての効果が限定的である一方、金融機関が資金を市場に放出するインセンティブが低下し、市場取引が不活発に なるため、市場機能が大きく損なわれるリスクが高いことから、現在の水準を維持すべきとの意見を表明した。」

まずは、利下げに向けての反対の意見が出た。これは最終的に利下げに反対した野田委員の発言のように思われるが、最初に反対意見を持ってくることにやや違和感もあり、これは野田委員以外の委員からの発言の可能性がある。

「これに対し、多くの委員は、現在は景気情勢が急速に悪化している緊急事態であり、可能な対応は早急に実施する必要があるとし、0.1%への利下げを主張した。」

多くの委員は緊急事態として、0.1%への利下げを主張していた。

「この間、一人の委員は、政策運営の考え方として、現在は、企業金融の目詰まりを解消するための対応を進める必要があること、政策金利を引き下げるかどうかについては、企業金融が目詰まりを起こしている中での効果と市場機能低下というデメリットの両方の観点から考える必要があることを指摘した。」

正論ではある。企業金融が目詰まりに対しての利下げによる具体的な効果、さらにデメリットの両方の観点から考える必要という議論はある意味最もなことでもある。、この発言も「一人の委員」となっており、最初に利下げに反対した委員と同一人物とみられる。

「金利引き下げの効果について、ある委員は、10 月末の政策金利引き下げにもかかわらず、インターバンクのターム物金利はむしろ上昇しており、今回、更に政策金利を引き下げたからといって、カウンターパーティ・リスクへの警戒感が強い中で、ターム物金利が大きく低下するとは限らないと述べた。」

白川総裁は会見などで「企業が実際に資金調達をする長めの資金の金利をどのように引き下げていくのか」といったことが実質的に意味のある論点だと述べている。ターム物金利の低下に繋がらなければ利下げを行なってもその効果は限られると、このため、ある委員の発言は総裁に近い委員からの発言とみられる。

「この点について、別の委員は、0.1% への利下げよりも、高止まりを続けているターム物金利に働きかける方が望ましいとの認識を示した。」

この「別の委員」も「ある委員」と同様にターム物金利に直接働きかける必要性を説いている。このように、この時点で0.1%の利下げに対しては実は反対は一人ではなく、複数、おそらく3人はいたと推測される。そして、その中には利下げには消極的であったと伝えられていた白川総裁本人が含まれている可能性がある。

「これに対して、何人かの委員は、企業金融円滑化措置とセットで政策金利を引き下げれば、金利引き下げの効果が実体経済に波及しやすくなり、効果が見込まれると述べた。また、複数の委員は、現在、急速に悪化している企業や消費者のコンフィデンスにも好影響が期待されると付け加えた。」

この何人かの委員、複数の委員とは反対の発言をしていた3人を除いた5人の委員のことであろう。

「こうした議論を経て、大方の委員は、政策金利を0.1%に引き下げることが必要との認識を共有した。」

最終的には、大方の委員の賛成、つまり7対1で利下げは決定されたのであるが、それまでにはかなり白熱した議論が交わされていたであろうことも確かなようである。

以上のことから、利下げに向けての最初に出された反対の意見は白川総裁の発言であった可能性がある。ここで面白い記事がある。ネットでも閲覧できるが朝日新聞の特集の中に、このような記述があった。(金融危機と中央銀行 http://globe.asahi.com/feature/081222/01_2.html)

「白川の前任の総裁、福井俊彦の時代には「執行部は最低6票の賛成を取る確信がないと提案しない」という不文律が働いていた。白川は、腹案を伝える中で、自分の意見への同調は求めなかった。執行部もきちんとした「票読み」をしなかった。」

実は拙著「日本銀行の基本と仕組みがわかる本」(秀和システム)では、金融政策決定会合での議案の決定に対して下記のように記述した。

「米国のFOMCでは議案を提示できるのは議長一人だけですが、日銀では政策委員がそれぞれ議案を提出できます。ただし、金融政策の変更の際には通常、議長提案によって行われます。議長提案とは、議長となっている総裁が個人的に提案するものではなく、会合における政策委員の意見をまとめるかたちで議長案が作成されます。つまり、日銀では政策委員のコンセンサスをとりまとめ、賛成多数によって議長案が可決されることを見極めた上で行われるのです。」

これが新日銀法の下での決定会合のスタイルと思っていたが、実際には議案の持って行き方などに対し具体的に決められているわけではない。つまり議長が変ればそのスタイルが変化する可能性があった。現実に10月の会合では政策委員のコンセンサスをとりまとめ、賛成多数によって議長案が可決されるのではなく、4対4の同数となっていた。つまり、現在の白川総裁のスタイルはイングランド銀行のキング総裁のスタイルに近く、コンセンサスを意識せずにまずは自分の意見を述べてきていると思われる。

そうであれば、最初にいきなり利下げに向けての反対の意見が出たのも納得できる。これは議長である白川総裁個人の意見の可能性がある。さらに最終的に利下げに反対した野田委員、そしてこれはあくまで憶測となってしまうが白川総裁の見方に近いといわれる山口副総裁の3人が実際には利下げにやや消極的であったことが伺える。しかし、さらに議論を重ねた結果、最終的には政策金利を0.1%に引き下げられることとなる。12月17日のFRBによる大幅利下げなどもあり、円高なども強く意識されたことで、緊急事態に対応せざるを得なかったとのではなかろうか。

議長からは、このような見解を取りまとめるかたちで、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.1%前後で推移するよう促すとの議案が提出され、採決に付され、採決の結果7対1の賛成多数で決定された。

一人反対した野田委員は「市場機能の低下が問題となる中で、それを大きく減じることは不適切であること、すなわち、市場機能を維持するためには、補完当座預金制度の適用利率、およびその政策金利とのスプレッドを一定水準以上にする必要があり、0.1% への利下げが行われると、両者間のスプレッドが確保されないため、金融機関が資金を市場に放出するインセンティブが損なわれ、市場取引が不活発になるリスクが高いこと、現在の政策金利の水準は既に極めて緩和的であり、0.1% への利下げは景気刺激効果が限定的な一方、市場機能の低下というデメリットが大きいため、むしろ、高止まりを続けているターム物金利に働きかけることが適当であることから、反対した」と議事要旨にあるが、これはそのまま白川総裁の個人的な意見にも近いものであったのではなかろうか。
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by nihonkokusai | 2009-01-27 12:32 | 日銀 | Comments(0)
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