「欧米金融当局者による物価上昇抑制への牽制球(まとめ)」
FRBのバーナンキ議長は、6月4日にハーバード大学の卒業式の講演で「インフレは我々が望む水準をかなり上回る、ここ数ヶ月の長期インフレ期待の上昇はかなりの懸念」と発言、ただし「物価上昇率が2ケタまで達した70年代半ばや1980年よりはかなり低い水準にある、と指摘した。
そして、ECBのトリシェ総裁は、5日の定例理事会後の記者会見において、「次回会合で小幅な利上げを実施する可能性を排除しない」と発言。「本日、数名のメンバーは利上げを主張」とも発言し、すでに5日の会合で即時利上げを求める意見も出ていたことを示した。
5日にECBが発表したユーロ圏の物価上昇率の予想は、2008年の予想の中間値は3.4%(予測幅は3.2%~3.6%)と3月時点の見通し2.9%(予測幅は2.6%~3.2%)から0.5ポイントもの引き上げとなり、よりインフレへの警戒を強めた格好となった。
このようにバーナンキFRB議長に続いて、トリシェECB総裁もインフレ警戒への姿勢を強めたが、欧米の中銀はこれまでのサブプライム問題による金融不安や景気への影響といったものから、軸足をインフレ懸念へと移しつつある。
ECBによる利上げの可能性も高まってきているが、さらに今度は米FRBによる年内利上げの思惑も強まってきた。9日にニューヨーク連銀のガイトナー総裁は「世界的なインフレ抑制にはおそらく引き締めが必要」と発言し、ダラス連銀のフィッシャー総裁も「ガイトナーNY連銀総裁の引締め策が必要とする意見に賛同」と発言したのである。
さらに9日にポールソン米財務長官は「為替介入含めいかなる措置も排除せず」と発言した。NY連銀のガイトナー総裁も「連銀はドルを非常に注視している、通貨に無関心でいられる中銀はない」と発言、ダラス連銀のフィッシャー総裁も、「弱いドルは商品価格に反映される可能性を指摘」と発言し、為替介入に対する質問を受けた際「どのような選択肢も排除しない」と発言している。
原油先物への投機的な動きの背景のひとつとしてドル安が影響していることも確かであり、物価上昇抑制策としての金融引き締めだけでなく、ドル安への対応も金融当局者は意識しており、ここにきて口先介入という牽制球を投じてきたものと思われる。
ポールソン米財務長官は、米財務省と連銀は緊密に協力と発言していたが、欧米の金融当局者はインフレへ警戒を強めており、その要因のひとつでもある原油先物や為替市場での投機的な動きを抑制しようといった動きを強めてきている。