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「水野日銀審議委員の会見」


 本日の山梨県金融経済懇談会における水野審議委員の講演の要旨が日銀のホームページにアップされた。この中で特に注目されたのが、米国のサブプライム住宅ローンの悪化に伴う問題に端を発した最近の「金融市場の混乱」に端を発した最近の「金融市場の混乱」に関する部分かと思われる。

 欧米の投資銀行のビジネス・モデルおよび提供商品の変化について、水野委員は「先進諸国の大手金融機関が信用リスクや金利リスクを内部に抱え続けるoriginate & hold型から、資金を必要とする主体と資金運用を求める主体とを世界的なネットワークの下で結び付け、これらの間でリスクとリターンの効率的な分配を実現していく“originate & distribute型”にシフトしている」点を指摘し、「金融のグローバル化が進むことによって、債務者に関するリスクが借り手の所在する国の金融機関だけでなく、世界中に拡がり、広く薄く分散されている」ことが今回のグローバルな金融市場の混乱を招いた背景にある点を説明している。

 過去20年の金融市場を振り返ると、ほぼ3年に一度のペースで金融市場の混乱が発生していることも水野委員は指摘。1987年のブラックマンデー、1990年はのS&L危機を受けたクレジット・クランチ懸念、1994年のメキシコ危機、1998年のロシア危機とそれに続くLTCM ショック、2000年のITバブル崩壊~2001年9月11日の米同時多発テロを受けた混乱、2002年~2003年にかけたデフレ懸念の台頭など。

 さらに水野委員は、「好調な相場が3年も続けば、調整は時間の問題というのが率直な感覚です。」とし、昨年5月のいわゆるグローバル・リスク・リダクション、今年2月末の世界的な株価の調整は、足もとの金融市場の混乱の予兆であったと指摘している。

 そして、今回の「金融市場の混乱」は、疑心暗鬼となった市場参加者の不安心理の伝播とその増幅に伴う流動性確保に向けた動きが引き起こしたものと捉えていると水野委員は発言していているが、まさにその通りであったかと思われる。

 「今取り組まなければいけない課題は、金融市場におけるパニック的な行動を沈静化することと考えます」との指摘もあるが、私も市場の動揺を抑えるには市場参加者への不安を緩和させるため、不安解消への期待に働きかける必要があると考えている。

 その対応策が「8月17日に行われたFRBの対応だと思います。FRBは8月17日、プライマリー・クレジット・レートを6.25%から 5.75%へ引き下げました。これによって、FRBは、市場参加者のパニック的な行動を落ち着かせるべく、アナウンスメント効果を活用したほか、中央銀行として金融機関に積極的に流動性を補完しています。」

 サブプライム問題が発生した背景について水野審議委員は、「世界的な過剰流動性」が存在する下で、行き過ぎた投資が行われていたことが大きい点を指摘。

 世界的な過剰流動性がもたらされた理由として、世界的にインフレ率が安定していたこと、主要国の年金マネーやアジア諸国や産油国の膨張する外貨準備高などが国際分散投資を拡大していたこと、世界的に緩和的な金融環境が続いたこと、日本銀行が低金利政策を続けていたこと、など。

 「サブプライム問題やそれに端を発した円相場の乱高下の原因として、わが国の低金利政策が無縁であるとは言えません」とし、足もとの金融市場の混乱は、「ファンダメンタルズから離れた金利水準を維持し続けることは金融市場をむしろ不安定化させるリスクがあること」も証明したとも指摘した。

 そして、サブプライム住宅ローンの劣化に伴う影響について注意すべき点として、「システミックリスクに発展することはないか、体経済に深刻な影響を及ぼすことはないか」がポイントになるとしている。

 「世界経済が極めて好調であること、日米欧ともに企業部門の財務体質が極めて健全であること、欧米の主要金融機関等の収益力が高く、自己資本の基盤もかつてないほど充実していること」などにより、「流動性の問題さえ解決すれば、時間の経過とともに金融市場におけるリプライシングのプロセスは進んでいくと」指摘し、水野委員は「システミックリスクの顕在化に発展する可能性や、実体経済に深刻な影響を及ぼす可能性は小さいと判断されます」としている。

 また、「エマージング諸国は今や経常黒字国が少なくなく、外貨準備の運用の多様化に動いており、グローバルには潤沢な運用資金が存在します。また、年金マネーやソブリン・ウエルス・ファンド等を含めた巨大運用資金の存在は資産価格の下落余地を小さくする存在」と、グローバルな多額な資金の流れが、今回のような金融市場の混乱に対してクッションの役割となる点も指摘している。

 水野委員は、サブプライム問題に関する個人の評価として、「現時点でのFRBの適切な政策対応を前提に考えています。つまり、FRBが流動性リスク、信用収縮のリスクを回避するための、保険的な利下げまでの政策対応で十分な金融環境であるならば、時間の経過とともに世界的に金融市場は安定化に向かうと見込まれます。」としている。これが水野委員にとり、メーンシナリオか。

 ただし「一方、想定外の景気悪化を理由にFRBが利下げに踏み切った場合、議論の前提が変わってきます。今後のFRBの動きを占ううえで、私が重要と考えるのは、米国の雇用情勢です。想定外の景気悪化が見込まれるとすれば、米国の個人消費の下振れと思いますが、それは雇用情勢を起点に影響してくる可能性が高いとみているからです。」としている。こちらがある意味、リスクシナリオとなるのか。
by nihonkokusai | 2007-08-30 13:22 | 日銀
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