リーマン・ショック並みのリスクとは何か
金融市場の動揺の背景には、高度化というよりも複雑化した金融商品に隠れていたリスクが表面化したことも大きいと言えます。サブプライムローンについてはそういった層に融資していた金融機関が直接被害を受けるものの、本来なら世界的な影響を及ぼすことは考えづらいはずです。しかし金融機関一社が、こういったローンのリスクをすべて一人で背負うことには無理があり、そのローンを担保にした証券を発行し、数多くの投資家に転売してしまうという仕組みが考え出されました。つまり一社では背負い切れないほどの信用リスクを、細分化して広範囲にばら撒いてしまう手法です。もちろんトータルのリスクが軽減するわけではありません。しかしこの仕組みならば、従来では不可能であったようなローンも提供することが可能となったのです。このような住宅ローンを裏付けにした証券が、住宅ローン担保証券(RMBS)と呼ばれるものでした。さらに合成債務担保証券、CDOの一部には、ローンや住宅ローン担保証券を組み入れたものがあったのです。
米住宅バブルの崩壊により、サブプライムローンの焦げ付きが増加し、格付会社がそれを組み入れた証券化商品を格下げしたことで巨額の評価損が発生しました。その結果、それらを大量に保有していた欧米の金融機関で、数十兆円とも言われる天文学的な損失が表面化したのです。2008年9月15日のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに、カウンターパーティ・リスクに対する市場参加者の警戒感が高まりました。
たとえばリーマン・ブラザーズ証券の破綻の際に、「正確な財務状況が確認されるまで既往契約に基づく決済を停止する」旨を発表したことで、約定済みの日本国債の取引が一切履行されないという非常事態が発生しました。この結果、リーマンが国債取引について引き起こしたデフォルトの規模は、2008年9月の予定分だけでも約7兆円規模に上ったのです。これによりリーマンと決済を予定していた相手先では、ポジション再構築、リーマンから引渡しを受けられなかった国債の調達及びリーマンに引き渡す予定であった国債の売却処分を余儀なくされたのです。また、リーマンから引渡しを受けなかったものについては、即日にその国債を調達することもできずフェイルを余儀なくされました。リーマン・ショックのあった2008年9月において、累計で6兆円弱のフェイルが市場で発生しました。リーマン破綻の経験を通じて、市場では、「破綻等のストレス時にモノ・金を予定通りに受け取れないリスク」(デフォルト・フェイルに伴う流動性リスク)が、概念上の存在に止まらない現実的なリスクとして、改めて強く認識されたのです(「リーマン・ブラザーズ証券の破綻がわが国決済システムにもたらした教訓」日本銀行資料より)。
「リーマン並みのショック」は米国住宅市場のバブルが崩壊し、そこに複雑に高度化した金融商品のリスク分散手法の欠点が顕在化し、そのようなリスクが顕在化すると前提せずに投資していた金融商品に大きな損失が発生し、グローバルな大手金融機関を直撃したのです。大手金融機関の破綻により市場における流動性リスクが顕在化し、カウンターパーティ・リスクに対する市場参加者の警戒感が世界の金融市場を直撃しました。そこで世界的な金融経済危機が発生したのです。それが日本の国債市場も揺るがしたのです。ではいま、このような潜在的なリスクはどこに存在していると言えるのでしょうか。中国、産油国などにもないわけではないものの、むしろその潜在的なリスクは債務残高の異常な大きさと中央銀行が財政ファイナンスのような行動をしている日本にこそ潜んでいるとも言えるのではないでしょうか。
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