日銀は卑怯なコウモリか
1月29日に日銀が決定した「マイナス金利付き量的・質的緩和」は、いったい政策目標は金利なのか量なのかが曖昧であった。マネタリーベース(日銀当座預金と現金の量)を大きくすれば、インフレ期待が強まり物価が上がるとの理屈で、2013年4月に異次元緩和が始まった。このときの日銀は金融政策は量で勝負しますと宣言していた。
それから3年近く時が過ぎて日銀は突如、マイナス金利を導入しますと宣言した。政策金利のひとつともいえる当座預金の超過準備にかかる一部の金利をマイナスにするとした。これにより政策目標を金利に戻したのかといえば、さにあらず。量の効果はあるので量も予定通りに増やすものの、これからはマイナス金利をさらにマイナスにさせることで追加緩和をしますよとした。
ECBもマイナス金利政策を取りながら国債も大量に買っているが、とりあえず政策目標は金利のままである。しかし、今回の日銀の政策目標は量のままではあるが、政策手段はマイナス金利の引き下げを軸にするかのように思われる。
いったい日銀の政策目標は量なのか金利なのかどちらであるのか。この矛盾はこれからいろいろな歪みを生み出すと思われる。
ただし、結果としての反応は金利引き下げとなることで、それが日本の長期金利の低下を促した。債券市場がポジティブな反応を示したことで、今回の日銀の追加緩和は効果ありとして株が買われ、セットで円安が進行。欧米市場では株も国債も買い進まれた。
ところがいま日本の債券市場関係者は今回の措置にかなり頭を悩ませていると思われる。金利なのか量なのかの矛盾が噴出してくるのはこれからだと思われる。
日銀はマイナス金利分だけ買入れ価格が上昇(金利が低下)することで釣り合うので、買入れは可能と考えられるとしており、欧州中央銀行ではマイナス金利と長期国債の買入れを両立しているとの説明をしている。
たしかにマイナス0.1%のペナルティ分以上を日銀の国債買入価格に上乗せさせれば、業者は日銀の国債買入に対応できる。しかし、金利と量は相反する政策であり、日銀は余計に超過準備積むならペナルティを課すので資金を融資などに向けろとさせながら、巨額の国債買入を続けてマネタリーベースつまり当座預金も増加させようとしている。この矛盾は国内の金融機関の資金運用をより難しくさせる。
少なくとも現在。金融機関が保有している国債の売却はより困難になろう。いったん手放してしまうとその資金にペナルティが付く上、新たに国債を買い入れるとマイナス金利となってしまう懸念が生じる。国債をマイナス金利で運用出来るのは外銀などの海外投資家や日銀への売却を前提とした業者に限られてしまうことで、債券市場の流動性はますます低下し、金利の低下そのものも流動性の後退要因となる。
日銀の出口はさらに遠くになる。金利は潰れ、国債の価格はうなぎ登り。にもかかわらず、国内投資家は国債を買うに買えない状況となり、苦しい状況に追い込まれていく。それによって何がもたらされるのか。コウモリの裏切りはいずれ明るみに出ることとなったが、日銀の今回の量と金利を両方追い求める政策の矛盾がいずれ浮上したときに、果たして何が起きるのであろうか。
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