牛さん熊さんブログ

bullbear.exblog.jp ブログトップ

クルーグマン氏の心変わり

 ポール・クルーグマン氏はアメリカの経済学者であり、コラムニスト、プリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授を兼任し、2008年にノーベル経済学賞を受賞している。辛口のコラムニストとしても知られており、かつては日本のデフレ不況に対し、政府や日銀の対応の遅さを繰り返し批判してきた。しかし、アベノミクスについては、コーディネートされた金融・財政政策が登場したと評価し、「そして日本経済が世界の希望になる」との著作も出している。そのポール・クルーグマン氏がいまになって心変わりしたようである。

 クルーグマン氏は6日にIMF主催の会合で講演した際、「フォワードガイダンスは経済に極めて限定された参加者しかいない場合にのみ機能する」との見方を示した。さらに「無責任であることを信頼できる形で約束すれば、後は自動的に問題を解決できるという考え方は楽観的すぎる。そうなることはない」と話したそうである(WSJ)。

 クルーグマン氏は「将来において無責任な行動をとることを信用してもらう」ことが必要だとこれまで唱えてきた。つまり市場に対し、日銀が大胆な金融緩和に、より慎重にはならず、インフレ促進へ動くと信じ込ませるような驚きを与えるべきだと主張していたのである。

 「1998年にクルーグマン教授は非伝統的金融政策に関する理論モデルを構築し、流動性のわなへの処方箋を提示しました。具体的には、当時の日本経済がゼロ金利のもとでも需要不足にあることを指摘したうえで、デフレを克服するためには、金融政策によって、マネーサプライを大幅に増加させ、インフレ予想を高めることにより実質金利を十分にマイナスにする以外方法はないと主張しました」

 上記は2014年6月の日銀の黒田総裁の講演内容の一部である。その上で、「量的・質的金融緩和」の導入は、「クルーグマン教授およびウッドフォード教授やエガートソン氏による理論に共通するメカニズムを実践したものです」としている。

 つまり異次元緩和と呼ばれた大胆な金融緩和の発想元となっているクルーグマン教授が、自らその考え方が誤りであることを認めた格好となった。これは日銀にとっては事件とも言えよう。アベノミクスの背景にあるリフレ派の考え方をその教祖とも呼べる人が疑問視したのである。

 このクルーグマン氏の心変わりは、日銀の異次元緩和による物価への影響が出なかったことや、FRBのQEも物価の上昇を促すことはなかったことで、壮大な社会実験の結果が出なかったことを認めた結果なのであろうか。

 ただし、FRBはすでに出口に向けて進み始めており、実験により行き過ぎた部分の修復を図ろうとしている。これに対し日銀は身動きができなくなっている状況にある。ここで日銀が追加緩和をしても成果が出るのかという疑問は残るが、少なくとも市場へのインパクトを考えての次の行動を取りたいのであれば、リフレ派の教祖といえる人物が考え方を改めた以上、日銀もリフレ的な政策を改めるべきかと思われる。政策目標を金利に戻すなりしてのフレキシブルな金融政策に変更すべきときが来ているのではなかろうか。

*** 「牛さん熊さんの本日の債券」配信のお知らせ ***

 「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、その日の債券市場の予想と市場の動向を会話形式でわかりやすく解説しています。10年以上も続くコンテンツで、金融市場動向が、さっと読んでわかるとの評判をいただいております。昼にはコラムも1本配信しています。ご登録はこちらからお願いいたします。

ヤフー版(サイトでお読み頂けます)
まぐまぐ版(メルマガでお読み頂けます)
BLOGOS版(メルマガでお読み頂けます)

講演、セミナー、レポート、コラム執筆等の依頼、承ります。
連絡先:adminアットマークfp.st23.arena.ne.jp
[PR]
by nihonkokusai | 2015-11-12 09:33 | 日銀 | Comments(4)
Commented by TBM at 2015-12-21 14:29 x
>そういえば最近、私が日本銀行の金融緩和策について、「考え方を変えた」などと、メディアで報じられています。そのことについて、お話ししたいことがあります。
>私は「心変わり」などしていません。

だそうですよ。
Commented by ポム君 at 2015-12-23 20:23 x
こちらが↑のリソースですね。
インタビューの日付はありませんが、FRBの利上げ前のようです。
gendai.ismedia.jp/articles/-/46965?page=4

>「心変わりをした」と、一部の海外・国内メディアなどで騒がれている。

インタビュアーは「心変わり」という、このブログと同じ表現を使っているので、この記事が念頭にあるのかも知れません(笑)

クルーグマンは自身を「アベノミクスの金融緩和策の強力な支持者です」とする一方で、早すぎる消費税率の引き上げと、低すぎるインフレ目標(4%を主張)には懸念を表明している、という感じでしょうか。
リフレ派の考え方自体を否定した訳ではありませんね。
Commented by ポム君 at 2015-12-23 20:49 x
コメントついでに、恐らく勘違いされているであろう点について、説明してみます。

クルーグマンと日銀で共通しているのは、次の点です。
①名目金利は0に達したが、実質金利はまだ高い
②0金利でもインフレ予想を引き上げる事で実質金利の引き下げが可能

異なっているのは、次の点です。

クルーグマン
③日本の均衡実質金利はマイナス
④しかしそれは永遠に続く訳ではない
⑤(↑を抜け出した)”将来”により高いインフレ率を許容(例えば4%)する事を信じてもらえれば”現在”のインフレ予想が上昇する
※この現在と将来の区別がついているかどうかが、クルーグマンの1998年論文を理解するポイントで、恐らくは久保田さん(そして黒田総裁)の理解からすっぽりと抜け落ちている部分です。

日銀
⑥マネタリーベースとインフレ予想には相関がある
⑦マネタリーベースを増やせばインフレ予想が上昇する

インフレ予想の引き上げ(=実質金利の引き下げ)が政策の確信であり、黒田総裁のコメントにある「共通するメカニズム」ですが、その為の方法・理論的根拠は異なっています。
ただし、⑤は「誰が信じるねん」的批判(もっともらしい言葉で言えば、時間的不整合性とか動学的不整合性)を超えられず、⑥は僕に言わせれば、統計を使ったインチキですが。

クルーグマンの心変わりは、④を永遠(恐らく比喩)に続くと修正した点です。
それに伴って⑤のフォワードガイダンスだけでは問題を解決できず、それを実践する為の裏付け(財政出動)が必要になった、と言うことかと思います。

元々両者は「似て非なる物」なので、心変わりした点は日銀の政策とは関係の無い部分ですし、そもそもクルーグマンは⑥⑦を念頭において話をしていない気もします。
Commented by nihonkokusai at 2015-12-25 09:47
ご指摘、ありがとうございます。
line

「債券ディーリングルーム」ブログ版


by nihonkokusai
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31