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日銀総裁が付利引き下げを否定した理由

 日銀の黒田総裁は8日の金融政策決定会合後の会見において、付利の引き下げに関する記者からの質問に対して、次のような回答をした。

 「付利の引き下げについては検討しておりませんし、おっしゃるように近い将来考えが変わる可能性もないと思っています」(日銀の総裁会見要旨より引用)

 この付利というのは、日銀の当座預金の超過準備に付けられた利子のことである。この総裁の発言が意味するところについて、あらためて考えてみたい。

 日銀は銀行としての預金業務を行っており、金融機関、国、そして海外の中央銀行、国際機関などからの当座預金を受入れている。日銀の当座預金は決済手段として、現金通貨の支払準備として、さらに準備預金制度における準備預金として機能している。

 金融機関に対して受け入れている預金等の一定比率(預金準備率、法定準備率、準備率)以上の金額を無利子で日銀に預け入れることを義務づけている準備預金制度でも日銀の当座預金が使われている。

 金融機関は預金者保護の立場から常に一定の余裕金を保有し、顧客からの預金引出しに備える必要がある。こうした余裕金のことを「準備預金」と呼んでいる。この金融機関が日銀に預け入れなければいけない最低金額を法定準備預金額あるいは所要準備額と呼ぶ。2008年11月からは当座預金のうち、準備預金制度に基づく所要準備を超える金額(超過準備)に利子(付利)をつけるようになった(補完当座預金制度)。

 昔の教科書には日銀の金融政策の手段として、公定歩合政策、公開市場操作、支払準備率操作(預金準備率操作)という3つがあると書かれていた。準備預金制度は1957年に施行された「準備預金制度に関する法律」により、金融政策の手段として導入された。この準備率を政策的に変動させることによって、金融機関の支払準備を直接的に増減させ、金融機関の資金の運用などにも変化を与えることで、間接的ながら景気や物価にも影響を与えようとする手段である。しかし、日本においては預金準備率の変更に関しては、過去にはほとんど金融政策の手段として用いられることはなかった。

 現在の日銀の金融政策は、公定歩合から無担保コール翌日物の金利を政策金利として、公開市場操作(オペレーション)を使って上げ下げする政策へと移った。そして、政策金利が実質ゼロとなると、量的緩和政策や量的・質的緩和政策が打ち出され、金融政策の誘導目標が政策金利から当座預金やマネタリーベースという量に変更されたのである。

 しかし、その量についても限界が見えつつあるなか、金融政策手段として預金準備率ではなく、超過準備の付利を操作する手段が指摘されていたのである。

 日銀の政策金利は無担保コール翌日物の金利ではあるが、厳密には政策金利は3つ存在している。基準貸し出し金利(ロンバート・レート)、政策金利である無担保コール翌日物の金利の誘導目標値、さらに超過準備に付利される金利である。つまり主要政策金利があって、その上限と下限を設定しているのである。現在の日米欧の中央銀行では、このようなコリドー(corridor:回廊とか通路)と呼ばれる政策金利の上限と下限を設けている。つまり政策金利には上限と本来の政策金利と下限の3つが存在している。

 ECBは2014年6月5日のECB政策理事会における追加緩和策の決定において、政策金利であるリファイナンス金利を0.1%引き下げ、0.25%から0.15%に。上限金利である限界貸出金利は0.4%に引き下げられ、下限金利であるところの中銀預金金利(預金ファシリティ金利)はマイナス0.1%し、マイナス金利となった。

 このECBの例にもあるように、日銀の当座預金の超過準備の付利もゼロやマイナスにするという追加緩和手段が存在するのではないかというのが、付利引き下げを主張する人たちの考え方となる。

 ところがECBが下限金利をマイナスにできたのは、政策目標を金利のまま維持させていたためである。たしかにECBは今年1月に量的緩和による国債買入を決定した。しかし、誘導目標はあくまで金利であり、量的緩和と言ってはいるが、日銀のように量を直接の金融政策の調節ターゲットとしてはいない。

 日銀がもし付利を引き下げるのであれば、マネタリーベースを増やせば物価が上がる、という前提条件を変える必要がある。マネタリーベースを目標まで引き上げることができるのは、銀行などが付利のある超過準備に資金を置いておくためである。もし付利がなくなれば当然、超過準備分は減少し、マネタリーベースの目標を達成することは困難となってしまう。このため日銀総裁は付利の引き下げについては、検討していないと否定せざるを得ないのである。

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by nihonkokusai | 2015-10-10 10:48 | 日銀 | Comments(2)
Commented by 林建城 at 2016-01-16 16:33 x
「日銀総裁が付利廃止を否定した理由」を拝読いたしました。
私は株式投資の立場から、わが国の経済成長を望む者で、金融方面にはほとんど知見がない素人です。
日銀の行なうアベノミクス、金融緩和によって株式市場は元気になりましたが、ここにきて危機を迎えています。
そこでまた金融緩和というカンフル剤の注入を希望するのですが、これまでの延長線で国債残高が膨張する策は禍根を残すのではないか?
それより、市場に実質的にマネー供給を増やす金融政策として付利廃止を望むのです。
私の認識では日銀による国債買取によって金融機関が資金を手にしますが、企業への貸し出しではなく日銀への当座預金として預ける部分が増えているのではないでしょうか?
銀行の立場からすれば、企業への貸し出しで利益を上げるのに越したことはないのでしょうが、貸し倒れリスクを心配するとともに金融庁からの監査・指導を忌避したいとの思いが絡んでくるものと推察いたします。
日銀への当座預金だとノーリスクで0.1%の金利収入が得られるわけですから、当座預金が増えてくるのは理に適っていると思うわけです。
マネタリーベースを維持するには銀行は本来の業務である企業への貸付増に邁進すべきと考えます。
その際、金融庁の監査・指導が障害にならないよう、銀行の自主性を最大限尊重するように政府としての明確な指針が必要と考えます。
そこで、銀行に対しそのような行動を促すために付利廃止が効果ありと考えます。
付利分が日銀の支出削減になり国庫収入が増えることも意味があると考えます。
質問なのですが、最終段の部分でマネタリーベースの目標を達成するために超過準備金を積んでいるとのことですが、多過ぎる超過準備金は市場経済に有効に役立っていないのではないでしょうか?
Commented by nihonkokusai at 2016-01-18 09:10
ご意見、ありがとうございます。私もほぼ同意です。日銀がリフレ的な発想を止めない限りは、付利の引き下げは難しいと思われます。超過準備分を含めて、リフレ策が有効であったのかについて、私もかなり疑問を抱いております。日銀が発想の転換をするかもと昨年10月あたりには少し期待を抱いていたのですが、ここにきての黒田総裁の発言からもその気配は伺えません。
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