アベノミクスで残ったのは日銀の国債だけか
ただし、日本経済は四半世紀ぶりの良好な状況を達成しつつあり、経済の好循環は着実に回り、デフレではない状況を作り出したとの安倍首相の発言もあった。
少し古い首相発言となるが、安倍首相は2013年2月の衆議院予算委員会で「デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる」との認識を示していた。
今月24日の安倍首相の発言のなかの「デフレではない状況を作り出した」というのは、どのような意味なのであろうか。
アベノミクスのなかの中心的な役割を担っていたのが金融緩和であった。2012年11月16日に衆院選が解散し、翌日に熊本市内の講演で、安倍自民党総裁は衆院選後に政権を獲得した場合、建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていくと述べた。同日の山口市での講演で安倍総裁は、輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう、と発言をした。
これがのちにアベノミクスと呼ばれたもののスタートとなる。この発言をきっかけとして急激な円高調整が起き、日経平均は上昇した。
アベノミクスはデフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられるとの発想が元になっている。日銀は2013年4月の量的・質的緩和により、2年程度の期間を念頭に2%の物価安定の目標を実現するとした。物価目標が達成できれば、デフレは解消し日本経済は四半世紀ぶりの良好な状況を達成できるというのが本来の政府・日銀のシナリオではなかったのか。
それにもかかわらず肝心の物価目標が未達どころかゼロ%近くにいる。それにも関わらず、その結果だけが出ていると強調するのは、説明としてはおかしくはないか。日銀が債券市場を麻痺させるほどの国債を大量に買い込んで、インフレ期待を高め、物価を上昇させると自ずと景気も良くなるとの発想のはずが、途中の経路を無視して、結果のみを強調しようとしている。その結果についても世界的なリスク後退の恩恵も考慮すべきであり、2015年4~6月GDPはマイナス成長となるなか、アベノミクスの効果と結論づけるにも無理があろう。
円安と株高のきっかけを作ったことは確かかもしれないが、そこには相場の力も大きく働いていた。上がったものはいずれ下がる、下がったものはいすれ上がる。買われすぎた円を売るタイミングに政権交代とリフレ発言が重なって、結果としてヘッジファンドを大儲けさせた。
その円安・株高という最初で最後のアベノミクスの成果もここにきて怪しくなってきた。これがなくなるとなれば、あとに残るのは300兆円という日銀の国債保有残だけともなりかねない。むろん日銀の国債買入はここで止めるわけにはいかず、日銀の保有国債は物価と関係なくさらに積み上がり、それが債券市場を圧迫させる。また将来のテーパリングや出口も困難にさせかねない。ある意味、日銀はその金庫に国債を積み上げれば積み上げるほど、それを火薬庫に変化させかねないとも言えるのである。念のため、現在の国債発行はペーパーレスのため、現実には日銀の金庫に国債の券面はなく、電子上での保管となっている。
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