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出口戦略に失敗した高橋財政の教訓は生かせるのか

 アベノミクスに出口はあるのか。それを見極める上で高橋財政時の出口戦略がどうであったのかを確認しておくことも必要である。今回も拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」の記述をもとに考察してみたい。

 高橋是清の考案した日銀引受による国債発行は、市中公募と異なり発行額や発行条件が市場動向に左右されなくなった。日銀の国債引受は国債の金利そのものの引き下げも目的としていた。金融緩和とともに、国債の発行条件の引き下げにより、金利の先安予想が強まり、国債価格の上昇予想を背景にして、国債の売りオペを通じての市中消化を円滑に行うことが可能となった。これは日銀の直接引き受けではないが、日銀の量的・質的緩和による大量の国債買い入れの効果も同様のことを意図していたとみられる。

 つまり、これは金利の引き上げを行うことはかなり困難になることを意味しており、その好循環が途切れるとすべての歯車がうまく回らなくなることも意味する。1935年に入るとそれまで順調となっていた売りオペによる円滑な市中消化が変調をきたしはじめた。

 高橋財政により景気は急速に回復し1932年から1935年にかけての実質経済成長率は年率7%程度と高い水準で推移した。景気の回復により銀行の貸し出しも伸び、1935年下期から銀行貸し出しが増加に転じた。銀行による国債の買い余力が減少してきたことで、日銀が引き受けた国債の民間への売却比率は1935年上期が9割程度あったのに対し、下期には5割前後に低下した。1933年から1935年半ばにかけてほぼ横ばいで推移していた卸売物価指数は、1935年の夏あたりから再び上昇してきた。

 1935年6月の閣議で高橋蔵相は、「毎年巨額の国債が発行せられて行く時は、現在すでに相当多額の公債を保有している金融業者等は内心不安を覚え、少しでも公債価格の下落が予想せらるるようなことがあれば、進んで公債保有額を増加せぬことは勿論、すでに保有している公債もこれを売却しようとする気になり、一度このような事態が起きれば加速度的に拡大してたちまち公債政策に破綻を来し、市場に公債の消化を求めることができなくなる」と説明している。つまり国債発行額を漸減すべき時期が来たことを示唆した。

 この高橋是清の説明はアベノミクスのひとつのリスクも示しているといえる。景気が回復し、物価も上昇するとなればいずれ金利の先高感も強まる。日銀による大量購入が続く間は問題が表面化しないとしても、日銀の物価目標に接近してくれば、テーパリングも意識される。しかし、テーパリングが困難となれば高橋是清時代のような財政ファイナンスが意識されることも考えられる。

 1935年7月に高橋蔵相は「公債が一般金融機関等に消化されず日本銀行背負い込みとなるようでなことがあれば、明らかに公債政策の行き詰まりであって悪性インフレーションの弊害が現れ」と警告を発している。

 量的・質的緩和による日銀の大量買入れは、国債への投資家需要があるなかで行われたものであり、このため国債が足りないとの発言が出るなど、需給面は非常にタイトとなった。ところがファンダメンタルズが変化し、貸出等が伸び、さらに国債の大口の買い手であったGPIFやかんぽ生命の国債保有額が減少するようなことになれば民間金融機関による国債需要が後退する。その結果、日銀の国債買い入れが国債市場を支えるような状況に陥ることも考えられる。高橋蔵相の言うところの日本銀行背負い込みという事態が発生する懸念が出てくることになる。

 高橋蔵相は経常収入の増加分だけ公債を減額すると言う方針で1936年度の予算編成に臨む。ところがこの1936年度予算を巡り軍部と大蔵省が衝突する。この予算案では歳出の5割弱が陸・海軍省の経費となっていたが、陸・海軍省はさらなる要求をしていたことで不満は大きくなっていた。その歳出の3割程度は国債発行で賄われることになる。

 高橋蔵相は「ただ国防のみに専念して悪性インフレを引き起こし、財政上の信用を破壊するごときがあっては、国防も決して安固とはなりえない」と主張する。自ら日銀による国債引受という手段を講じることでパンドラの箱を開いてしまったが、これは自らで制御できるという意識もあったと思われる。しかし、打ち出の小槌を使ってしまったことは確かであり、そのリスクが誰よりもわかっていたはずの高橋是清でもそれを取り上げることはできなかった。

 戦前の軍備拡張を行っている時期の日本の財政と現在の日本の財政を比べるのはおかしいとの意見もあろうが、この高橋財政時代よりも現在の日本のほうが財政状況は悪化している。アベノミクスは非常にタイムリーな登場の仕方をしたことで、リフレ政策がうまく行っているかのように見える。ところがそこには国債という大きな爆弾を抱えている状況であることは高橋財政と何ら変わりはない。そのリスクが顕在化してくるのはどのようなタイミングなのか。高橋財政は出口戦略に失敗したが、果たしてその教訓は生かされるのであろうか。

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by nihonkokusai | 2014-08-13 08:49 | アベノミクス
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