高橋財政とアベノミクス、円安政策の効果に違い
1932年3月と6月に日銀が公定歩合を引き下げた際にはあまりその効果は出なかった。8月の第三次公定歩合の引き下げで、本格的な低金利時代を迎えたことが意識された。加えて政府による積極的な財政政策が打ち出された(満州事件費や時局匡救費)。財政面からの大規模な需要拡大・景気刺激策と呼応し、金融面から金融緩和・金利低下を本格的に推進しようとする政府の意向も浸透してきたことで、景気回復への期待を強めることになる。アベノミクスによる2本目の矢はこのあたりも意識されてのものであろう。
1932年8月以降は輸出の伸びも顕著になる。財政支出と輸出の増加により総需要は拡大し、日本経済は1932年後半から急速な景気回復過程に入る。物価も上昇し卸売物価は1932年7月から、小売物価は同年8月から上昇に転じる。1932年12月の卸売物価指数は前年同月比39.6%増となり、ほぼ金解禁当初の水準まで戻った。
アベノミクスをきっかけに急速な円安を招くことになり、2012年11月以降、株価も上昇した。物価も円安の影響を受けて上昇し、2013年3月に前年比マイナス0.5となっていたコアCPIは2014年4月にプラス1.5%まで上昇した。これは2013年4月の量的・質的緩和がすぐに効果を発揮したというよりも、2012年11月以降の円安の影響が大きいといえる。
高橋是清は世界最速でデフレからの脱却に成功させたと言われているが、高橋財政は世界経済が停滞する中での円安を梃子にした輸出の増加が大きく影響していた。諸外国はこれを「ソーシャル・ダンピング」と強く非難した。満州事変に続き上海事変などの軍事行動とともに円安による輸出急増は対外摩擦を大きくする誘因となり、国際的孤立を招く要因となったのである。
アベノミクスによる円安に対しては、急激な円高の調整という側面もあり、直接非難されることはなかったものの、米国あたりからは懸念も出ており、日本政府も為替については慎重な発言が多くなっていた。
この円安による効果がアベノミクスは高橋財政では異なってきている。物価の上昇などに影響は与えたものの、アベノミクスに関しては円安により輸出がそれほど大きく増加していない。むしろ燃料輸入額の増加が輸出の増加を上回っているような状態にある。
円安により輸出が伸びていないのは、国内メーカーが円高の際に生産拠点を海外に移したことなども影響しているが、家電メーカーの競争力低下なども背景にあると思われる。
アベノミクスにより、円安となり株もそれなりに上昇し、物価も上がったが、日本の頼みの綱である輸出が伸びないとなれば、賃金の伸びなども抑制される恐れがある。物価が上がりデフレが解消されれば、すべての問題が解決されるかのようなリフレ政策ではあったが、物価が上がればすべてが解決されるわけではない。その物価高のために、なぜか日銀は一生懸命、国債を大量に購入し続けている。
高橋是清は財政政策を進める上での日銀の国債引き受けにブレーキを掛けようとして暗殺された。アベノミクスはデフレ解消のためとして日銀に大量に国債を買わせたが、もし物価目標が達成されるとしても、やはりそこにブレーキを掛けることが難しくなることも予想される。歴史は繰り返すのか。高橋財政で何が起きたのか、もう一度確認しておくことも重要ではなかろうかと思う。
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