日銀の異次元緩和が長期化する可能性
講演要旨によると木内委員は副作用に関して次のように指摘をしている。
「量的・質的金融緩和は、正常化のプロセスが容易でない、財政ファイナンス観測を高めかねないなどの相応に大きな潜在的リスクを抱えていると考えています。私自身は、2%の「物価安定の目標」は中長期でみた場合にのみ、日本経済の実力と整合的になりうると考えていることから、仮に現在の大規模な金融緩和策が長期化あるいは追加的措置によって強化されれば、逆にこれらの副作用がプラス効果を上回り、長い目でみた経済の安定をむしろ損ねてしまうリスクを強く意識しています」
日銀の異次元緩和と呼ばれる量的・質的緩和が実施されて1年4か月が経過した。この間、日銀は金融政策に関しては政策変更は行っていない。一部の市場からは追加緩和を期待する声も出ていた。これについて日銀の黒田総裁は「戦力の随時投入はしない」として、過去の日銀のようなスタイルとは違う姿勢を示した。これは裏返せば、木内委員の指摘しているように、追加的措置によって副作用が生じる懸念もあったためとの見方もできる。もちろん、追加緩和を否定して市場に失望を生むようなことは避けるため。その可能性は常にあるように見せていたことも確かである。
それでは日銀は今後、どのような動きをしてくるのか。いくつかのシナリオが想定されるが、可能性としてありうるのは、現在の金融政策をこのまま続けていくことである。過去の日銀の金融政策の変遷を見てみると、政策変更を長らく行わなかったことが幾度かあった。
バブル発生の原因とされた公定歩合の2.5%という、当時は低金利とされた水準は1987年2月から1989年4月まで続いた。約2年2か月である。その後、公定歩合の1.75%という水準が1993年9月から1995年3月まで続いた。こちらは約1年半である。1995年3月からは政策金利が公定歩合から無担保コール翌日物に代わる。その水準が0.5%をやや下回るとすると決定したのが1995年9月で、それから1998年8月まで現状維持が続いた。こちらは約3年近くとなる。
前回の量的緩和の時代も長く、2001年3月から2006年3月と5年間に及ぶ。この間、政策金利が実質ゼロとなったために、日銀の当座預金残高が政策目標となり、幾度かその目標値の引上げが実施された。しかし、政策金利そのものは5年間変更されていなかった。
前回の量的緩和と今回の量的・質的緩和の大きな違いは、前回が戦力の随時投入を行っていたのに対し、今回はバズーカ砲に例えられたようにまとめて大きく量を打ち出したことにある。それによる心理的な効果を狙ったとされるが、これが以前のような戦力の随時投入のようなスタイルに戻すとなれば効果は薄れる。ましてやバズーカを何度も打ち込むことになると、その副作用が大きくなり取り返しのつかない事態が起こりうる。もちろんそれは財政ファンナンスが意識されての長期金利の急騰という事態を想定している。
現在の金融政策を取り巻く環境は、日銀にとって非常に良い。この環境を日銀のバズーカが生み出したかどうか見方は分かれよう。私はこの点については懐疑的であるが、少なくとも物価が上がりやすい環境になりつつあることは確かではなかろうか。そうであれば、たとえ2%の物価目標がなかなか達成できなくとも、追加緩和を行う必要性はなくなる。むしろ物価目標をぎりぎりで達成できないほうが、日銀にとって出口を意識されずに済む。この環境がどこまで続くかはわからないが、日銀の政策変更なしの状態は過去にあったように意外に長期化する可能性もある。ただし、木内委員も指摘していたように長期化すればするほど、その副作用の懸念も強まることも確かである。
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