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日本版テーパリングは可能なのか

 7月8日の中曽日銀副総裁の講演「Japan's Economy and Monetary Policy」の邦訳が日銀のサイトにアップされた。内容は昨年4月の日銀による量的・質的緩和政策による成果を中心としたものである。

 白川前総裁から黒田現総裁に代わり、これまでの日銀の考え方が大きく転換したが、その転換の意味を知るには日銀出身の中曽副総裁の見方は興味深いものとなる。しかし、副総裁という立場上、これまでの黒田総裁の発言等に沿ったものになっていることは致し方ないところではあろうか。

 この1年の成果として、量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮し、日本経済は2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっているとしている。量的・質的金融緩和導入時にマイナス0.5%だった消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースでみて、5月にはプラス1.4%まで改善した。これには需給ギャップの改善と、中長期的な予想インフレ率の上昇が背景にあったとしている。ただし、次のようなコメントも加えられている。

 「夏場にかけては、これまでの円安やエネルギー価格の上昇の影響が減衰していくため、プラス幅が一旦縮小し、その後再び上昇基調に復する可能性が高いことは付言しておきたいと思います」

 上記の発言は黒田総裁もしていたが、ここにひとつ矛盾が存在する。物価の上昇には、需給ギャップの改善と、中長期的な予想インフレ率の上昇というメカニズムが働いたとしておきながら、「これまでの円安やエネルギー価格の上昇の影響が減衰していくため」というのは何であろうか。

 物価上昇の要因として円安やエネルギー価格の上昇が少なくとも0.5%程度はあったということではなかろうか。さらに昨年秋にかけての物価は何もせずともプラス0.5%あたりまで上昇するとの予想もあった。つまり仮に異次元緩和による2つのメカニズムが働いたとしても、それは0.5%程度の引き上げであったとの見方もできる。この0.5%にしても、直接的ではないにしろ円安等による原材料価格の上昇などが影響していた可能性もありうる。このあたりの分析は日銀が最も得意としているところかと思うが、「円安やエネルギー価格の上昇」による影響を触れないあたり、オブラートに包んでいるようにしか見えない。

 そして、もうひとつこの講演で気になったのが、出口戦略である。国債買入は財政ファイナンスではないことを強調するのは立場上は当然として、我々は量的緩和からの出口を経験した唯一の中央銀行であり、私は当時、金融市場局長として実際に出口を完了させていると中曽副総裁は発言していた。

 たしかに2006年3月に日銀は量的緩和の解除を行っている。しかし、日銀はすぐに削減可能な当座預金残高を目標としていたため、解除は極めて容易であった。ただし、この際に国債の買入は減らしていない。減らせば国債市場に多大なる影響を与えると危惧されたためである。

 参考までに1998年末の運用部ショックと呼ばれた国債の急落は、資金運用部の国債買入の打ち切りがひとつの原因となった。日銀の国債買入の減額は困難を極めるという見方は昔から強い。このあたりも意識してか、福井総裁当時は当座預金の残高目標を何度か引き上げても、国債買入はそれとなく現状維持にさせていたのも、出口を意識していたためと思われる。

 米国はテーパリングを着々と進めているが、果たして日本版テーパリングは可能なのか。これは非常に大きなテーマとなりうる。物価はその要因が何であれ、確かに上がってきている。もし2%近くまで日銀の想定通りにいった場合に、長期金利はどう動くのか。ここ15年間低位安定していた長期金利は日銀の金融政策により抑えられていた。いわば日銀の金融政策という鎖に縛られていたとも言える。それが解き放たれたとき、日本の財政問題が大きくクローズアップされる懸念が出てくることになる。出口政策、特に国債買入の取り扱いはかなりの難題となりうるのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2014-07-10 09:35 | 日銀 | Comments(0)
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