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ECBの追加緩和策の内容と影響予想

 6月5日のECB政策理事会に注目が集まっている。ECBによる追加緩和期待により、ベルギーやスペインの長期金利は過去最低水準に低下し、ドイツや英国、さらには米国の長期金利まで大きく低下した。米長期金利は29日に一時2.4%まで低下したが、特に国内で金利低下を促すような材料はなく、ECBの追加緩和観測が米国の長期金利の低下も促したと言える。

 問題となるのはECBの追加緩和の有無よりもその内容になる。これだけ市場に追加緩和を織り込ませている以上は、何もなしという選択肢は考えづらい。ドラギ総裁は為替の動向に注意を払っているようだが、ゼロ回答ではそれをきっかけにユーロ高を招く恐れがある。

 想定される追加緩和策としては、小幅利下げとともに流動性供給など複数の措置を組み合わせた政策パッケージを打ち出す可能性がある。これについては28日にECBのメルシュ専務理事も言及していた。

 利下げについては主要政策金利であるリファイナンス金利が0.25%と実質ゼロ金利に近い水準にあるが、ここをマイナスにすることはない。現在の中央銀行の多くは、コリドーとよばれる政策金利の上限と下限を設けており、マイナスとなるのは下限金利の部分となる。日銀で言えば基準貸し出し金利(ロンバート・レート)が上限金利だが、下限金利は超過準備の付利でありこの部分である。

 ECBの上限金利の限界貸出金利は0.75%、政策金利であるリファイナンス金利が0.25%、下限金利の中銀預金金利(預金ファシリティ金利)は0.00%である。主要政策金利のリファイナンス金利を0.1%か0.15%程度引き下げるとなれば、預金ファシリティ金利も同じ幅で下げられるとマイナスとなる。これがマイナス金利と呼ばれるものとなる。

 実は過去にも同様のマイナス金利が存在している。2009年7月にスウェーデンの中央銀行であるリクスバンクは世界で初めてマイナス金利政策を実施した。これは政策金利を0.25%に引き下げた際、政策金利から0.5%上乗せしてロンバート貸出金利、0.5%差し引いて預金ファシリティ金利を機械的に設定していたため、預金ファシリティ金利がマイナス0.25%となってしまったのである。2012年7月にデンマーク中銀ではECBの利下げに合わせて、主要政策金利である貸出金利を0.25%引き下げ0.20%にし、譲渡性預金金利を0.05%からマイナス0.20%に引き下げている。

 預金ファシリティ金利のマイナスであれば、このように過去に欧州に実例もあり、民間銀行への影響も限定的と思われる。ただし、実質的な利下げ幅は限定的であり、マイナス金利を強調したとしても、あくまでコリドーの下限が技術的にマイナスになってしまったとの捉え方をされる可能性はある。もちろん利下げをするという行為そのものに市場は反応するかもしれないが、すでに織り込まれている以上、実質的な効果は限られる。そのため他の政策を含めてのパッケージを準備しているとみられる。

 仮に量的緩和政策というか資産買入を行うにしても、日米に比べて国債市場がさほど大きくはないこともあり、日銀のように規模で勝負というわけにもいかない。日本の債券市場のように流動性に影響を与える可能性もある。他の資産の買入についても国債に比べて規模は小さい。それでもユーロ域内の長期金利の低下を促す目的による国債買入の可能性もゼロではないが、すでにイタリアなどは過去最低水準まで長期金利が低下しているなかにあり、効果は限られよう。ただし、日銀が主張しているような名目金利を押さえ込んで実質金利をマイナス化させる、などの目的での国債買入も否定はできない。

 パッケージに含まれるものとしてはLTRO(期間3年の長期リファイナンス・オペ)の再導入などの可能性がある。ユーロ圏の信用不安の後退に一定の効果があったとされるLTROだっただけに、それなりに市場にインパクトを与える可能性はある。しかし、これも金融危機真っ直中ではない現在、効果のほどは以前のものと比べると限定的と言えよう。

 いずれにせよドラギ総裁は、追加緩和、マイナス金利、天下の宝刀のLTROの再導入などを強調して、ユーロ安に働きかけようとすると思われる。しかし、市場のポジションがすでにユーロ売りや長期金利の低下という形で動いてしまっている以上、2012年11月のアベノミクスのような効果はそれほど期待できないと思われる。しかし、奥の手のマジックが隠されているとすれば話は別である。

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by nihonkokusai | 2014-06-03 09:37 | 中央銀行 | Comments(3)
Commented by wolf roppongi at 2014-06-03 18:12 x
預金ファシリティ金利をマイナスにするだけで超過準備に対する付利が0%に保たれるのであれば、余剰資金が預金ファシリティから準備預金に移動するだけなのでは?と考えています。当然EURIBORがマイナスになることもないでしょうし。

いかがでしょうか?それとも超過準備にマイナスの付利を始めるのでしょうか?
Commented by nihonkokusai at 2014-06-04 08:59
まったくもってご指摘の通りで、私の理解不足がありました。6月3日の牛熊メルマガのコラム、さらに4日にこちらにアップしましたコラムで、そのあたりをあらためて解説させていただきました。ご指摘感謝です。
Commented by wolf roppongi at 2014-06-04 10:31 x
4日のコラム拝見させていただきました。とてもわかりやすく理解が深まりました。ありがとうございます。
超過準備に対するマイナス不利、超過準備残高に対する上限設定などの合わせ技がなければ、実質的な意味としてはアナウンス効果のみですよね。どうも「マイナス金利」という言葉だけが独り歩きしている報道が多いと思いコメントさせていただきました。
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