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アベノミクスがなくても円安は起きていた

 1月16日の日銀支店長会議の挨拶で、日銀の「量的・質的金融緩和」は、所期の効果を着実に発揮しており、日本経済は2%の「物価安定の目標」の実現に向けた道筋を順調にたどっているとコメントした。歴史に、たらればは禁物と言われるが、そろそろ異次元緩和を中心としたアベノミクスの効果を再考することも必要ではないかと思われる。

 アベノミクスと呼ばれた政策には三つの政策が含まれている。金融政策・財政政策・成長戦略である。このうち財政政策と成長戦略は特に目新しいものはなく、公共事業の拡大等による影響を除けば、それほど景気に大きく作用するようなものはなかった。このなかで最も異質に見えたものが、異次元緩和と呼ばれた金融政策である。

 2012年11月にアベノミクスと呼ばれる政策が次期首相の有力候補となった安倍自民党総裁から打ち出された。それは輪転機発言にもあったような脱デフレを掲げたリフレ政策であった。これを持ってパラダイムシフトが起きたとの見方がある。

 パラダイムシフトには興味深い前例がある。昭和初期の高橋財政である。この高橋財政のパラダイムシフトとアベノミクスのそれにはいくつか共通項とともに相違点がある。共通項としては、政権が変わることによる期待が出ていたこと。さらに円安を導きやすい地合が出来ていたことである。高橋財政のパラダイムシフトの主要因は金輸出の再禁止による金本位制からの離脱にある。これにより円安・金利安と財政拡大が可能となった。日銀の国債引受はあくまで財政拡大の手段にすぎない。現実に開始されたのは高橋財政開始1年後であった。

 アベノミクスについては、政権交代によるパラダイムシフトへの下地はあったが、円高調整を加速させることで、市場において円安株高の流れが強まり状況が変化した。ただし、高橋財政時のように必然的に円安になるような金輸出禁止などを行ったわけではない。実際には火を付ければ燃え上がるような環境にあったのである。パラダイムシフトは日本国内で起きていたのではなく、欧州を中心とした海外で起きていた。

 これについてはイタリア、スペイン、ポルトガルなどの長期金利の推移、さらには対ドルでのスイス・フランなど、アベノミクスとは直接関係のないチャートを確認すれば、大きな山をすでに越えていたことがわかる。この山とは言うまでもなく、欧州周辺国の信用不安による世界的なリスク拡大によるものであった。そのなかで買い進まれていたもののひとつが「円」であった。

 リスクヘッジと称した円買いの勢いはすでに止まっていたが、ユーロ危機の後退にはまだ疑心暗鬼な投資家もいたことで膨大な円買いポジションが溜まっていた。そのようななかにあり、アベノミクスの登場をきっかけにヘッジファンドが円売りとそれにより株高を見越しての日本株買いのポジションを仕掛けた。それがアベノミクス登場とともに起きた急激な円高調整と株高の背景にある。その後は、世界的なリスク後退により、欧米の景気も回復基調となり、円安の影響と伴ってその流れにも乗って日本経済も回復基調となったといえる。

 物価についても、すでにコアCPIはプラス1.2%と1%を超えてきている。異次元緩和以前から秋口以降の物価の回復がある程度予想されていたが、そこに円安による影響分がオンされての1%超えといえる。アベノミクスは確かに円安を加速させたが主要因でないことは前述のとおり。さらに物価の上昇はこの円安による影響が大きかった。

 海外市場の動向を見ればわかるが、アベノミクスが仮になかったとしても、いずれ円高調整は起きていたことも確かであろう。つまり冷静に見てみると、2%の物価目標など設定し、無理な国債買入を行わずとも、円安が起きていればある程度の物価上昇は起きていたことが想定されるのである。

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by nihonkokusai | 2014-01-17 07:58 | アベノミクス
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