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歴史的な金融危機後の世界

 1月6日にアイルランドはシンジケート団を通じ10年国債を発行した。アイルランドにとり、金融支援から脱却後はじめての国債入札であったが、発行額37億5000万ユーロに対して4倍近くとなる140億ユーロ以上の需要があったそうである。アイルランドの10年債利回りは一時3.25%に低下し、2006年以来8年ぶりの水準をつけた。7日にはギリシャの10年債利回りは7.73%近辺まで低下した。これは2010年5月以降の低い水準となる。スペインの国債も買われ、10年債利回りは3.74%と2009年12月以来の水準に低下した。

 これらの動きがさほどマスコミ等を賑わすことはなく、市場での欧州の信用不安への関心がそれだけ薄れてきているとも言える。市場は熱しやすく冷めやすい。だからこそバブルや金融危機が生じる。少なくともギリシャを発端とした欧州危機を材料とした大相場は終了した。欧州の信用不安については根本的には解決していないとしても、マーケット発の危機が再燃することは考えづらい。むろん新たな材料が飛び込んでくるのであれば別ではあるが、危機は終わっていないとしてギリシャなどの国債を売ったり、ユーロを売ってくる投資家はいたとしても、いまさら何をしているのかと見られてしまうのではなかろうか。

 サブプライムショックと呼ばれた金融ショックが起きたのが2007年、2008年にはその影響からリーマン・ショックが起き、2010年にはギリシャを発端とした欧州の信用危機が発生した。百年に一度とされるような危機が立て続けに起きたことで、世界の金融市場は不安定化し、それは経済にも打撃を与えた。そのための対策として当初は財政政策も取られたが、日米欧の中央銀行を中心とした積極的な金融緩和政策に比重が掛かることになった。

 危機の最中では非常手段に訴えざるを得なくなる。FRB、ECB、イングランド銀行、日銀などはいわゆる非伝統的手段とされる政策を実施した。それは主に国債を中心とする債券の大規模な買入となった。FRBはQEと呼ばれた量的緩和を、ECBは市場安定化のために危機に陥った国の国債を購入し、イングランド銀行も国債を一定規模買い入れる量的緩和策を実施してきた。日銀も手をこまねいていたわけではなく、基金という別腹で国債を買い入れるなどの政策を実施してきた。

 これらの金融緩和策がマーケットの安定化に寄与したことは確かであろう。欧州では危機に陥った国々への支援策も講じられ、次第に危機は沈静化し、前述のように危機国のひとつであるアイルランドは国債発行が再開できる状況にまで回復し、ギリシャの長期金利は危機前の水準に低下しつつある。

 各国の中央銀行の金融政策の目的はそれぞれ決められている。しかし、その目的には他国の危機、いや世界経済を救うためというものはない。だからこそ非伝統的な手段を講じても、それは自国の経済や物価を睨んだ政策と指摘せざるを得なかった。昨年12月のFOMCでの量的緩和政策の縮小開始決定も、自国の雇用等を名目上の理由にせざるを得なかったが、世界的な危機、リスクの後退がその背景にあったことは確かであろう。

 2014年の世界経済や市場動向を占うにあたっては、歴史的な金融危機後の世界がどのようなものになるのかを意識する必要がある。市場ではいまだに日米欧の中央銀行に対して追加緩和を期待するような声も出ているが、非常事態は去った以上、金融政策も正常化させることが必要となってくる。ただし、病は回復しつつあっても、まだ病み上がりの状況にあり、すぐに金融政策を引き締め策に転じることは難しい。ここはもう少し金融政策で時間を稼いでほしいところでもあろう。

 しかし、非常時に行った政策のツケはいずれ回ってくる。このような状況下にあり、日銀だけが非常事態宣言を解除していない。していないどころか、さらなる異次元緩和すら視野に入れている。これも大きな気掛かり材料である。

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by nihonkokusai | 2014-01-09 09:28 | 中央銀行
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