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佐藤日銀審議委員の物価の見方

 12月4日の函館での佐藤健裕日銀審議委員の講演内容が日銀のサイトにアップされた。このなかから物価の見方に関するところに焦点を当てて見てみたい。

 「円安やエネルギー価格上昇のほか、デジタル家電類の下げ止まり等を映じて消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は中心的な見通しに沿う形でこれまで推移しており、既に1%前後に達している。ただし、為替・エネルギー価格等の前提を横ばいと置くと、この種の物価押し上げ影響は直近7-9月期をピークに先行き減衰するため、仮に本年前半の高成長による需給ギャップ改善の影響が2014年度の物価に現れるとしても、フラット化した最近のフィリップス曲線を前提とすれば、物価が1%を大きく超えて推移し続けるとの想定は無理があるように思われる」

 今後コアCPIは1%近辺まで上昇してくる可能性はあるが、1%を大きく超えては推移しないとの見方が佐藤審議委員をはじめ、エコノミストの一般的な見方であると思われる。

 「バブル経済崩壊以降、物価が前年比で1%を超えたのは 2008年の一時期だけで「滞空期間」はほとんどなかった。1%を超えたのも、円安・エネルギー高によるコストプッシュ・インフレによる一時的なものであったため、当時は予想インフレ率も上方にシフトしなかった。」

 バブル発生後は日銀の緩和が足りず期待に働きかけなかったことが、予想インフレ率の引き上げに結びつかず、物価上昇も一時的なものになったとリフレ派は指摘する。しかし、やっていることは同じで国債を倍買えば、期待が膨らんで予想インフレ率が上昇し、物価も上昇するという理屈はまったく理解できない。

 「家計、企業やエコノミスト、債券市場参加者等を対象とする各種サーベイからは全体として予想インフレ率の上昇を読み取れるが、これらの多くは消費税率引き上げの蓋然性の高まりとの厳密な識別が困難である。」

 固定利付国債と物価連動国債の利回り較差から求められるブレークイーブン・インフレ率にも消費増税の影響が加味される。このあたり、明確な区別もむずかしくなり、来年の物価を見る上でも要注意となる。BEIに関しては、消費税率の問題とともに、物価連動国債の市場流動性の低さから流動性プレミアムの変動が無視できない影響を及ぼしている点も指摘している。予想インフレ率をみる指標のひとつとして参考にするのは良いが、その数値はあくまで市場参加者の一部による売買(もしくは値付け)で決定されていることも注意すべきで、予想インフレ率を代表する指標として必ずしも適当でないとの佐藤委員の発言に私も完全に同意である。

 「10月から発行が開始された償還時の元本保証(フロア)付の物価連動国債のBEIは100bps程度で推移している。向こう10年間で計 5%の消費税率引き上げを勘案したうえで、BEIがこの程度の水準にとどまっていることは興味深い。 」

 そもそもBEIの数字上でインフレ期待がほとんど生じていない点も指摘している。予想インフレ率の上昇にこのBEIの数値を都合良く使う例もあるが、それが適切なものではない点に注意すべきであろう。

 佐藤委員は、物価見通しの上振れリスクという点では賃金の動向にも着目しているともコメントしている。

 「一部の経営者がこのところベア実施に前向きな姿勢を示し始めたことは特筆すべき変化である。「賃金は上がらないもの」という消極的な期待が前向きに変化するカタリストとして貴重な一歩であろう。」

 ただし、これは政府の意向もかなり反映されたものであり、この点にも注意したい。

 「名目賃金の持続的な上昇が実現すれば、家計・企業・市場参加者の予想インフレ率に好影響が及び、人々のデフレ予想が前向きなインフレ予想に変化する、すなわちデフレ脱却の蓋然性が高まる可能性がある」

 そのようなかたちでデフレ脱却が望ましいと私も思うが、異次元緩和でそれがもたらされるものなのであろうか。

 「日本銀行は2%の物価上昇を表面的に達成するためにあらゆる犠牲を払うのではなく、国民経済が健全に発展し、雇用情勢の改善が賃金の上昇をもたらすなかでバランス良く緩やかに物価が上昇する状況を目指している。2%の「物価安定の目標」はそうした好ましい状況を示すものとして捉えるべき性質のものと私は理解している。」

 日銀の異次元緩和とそれを導入するに至る過程を見る限り、「2%の物価上昇を表面的に達成するためにあらゆる犠牲を払う」ようなことをしているようにしか見えない。もちろんこの犠牲というのは、政府や日銀ではなく、ツケを先送りされた国民がいずれ負うものである。雇用情勢の改善が賃金の上昇をもたらすなかでバランス良く緩やかに物価が上昇するにはどうすれば良いか。それは金融政策で何とかなるものなのか。追加緩和と騒ぐのも良いが、アベノミクスから1年経過し、そろそろこのあたりも真剣に考える必要もあるのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2013-12-06 09:55 | 日銀 | Comments(0)
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