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ECBの電撃利下げの理由

 「兵は拙速を聞く」、孫子の言葉である。これを実践したのが、11月7日のECB政策理事会でのドラギECB総裁であった。そういえば昨年4月4日の日銀の黒田総裁による異次元緩和の決定も同様であったか。

 11月7日のECB政策理事会では、主要政策金利であるリファイナンスオペの最低応札金利を0.25ポイント引き下げ、過去最低の0.25%とした(適用は13日から)。預金ファシリティー金利については現行の0.0%のままとしたが、今後はマイナス金利の可能性も出てきた。会見でも「技術的な用意は整っており、ECBが有する手段のひとつだ」とドラギ総裁はコメントしている。

 31日に発表された10月のユーロ圏消費者物価指数は前年同月比0.7%の上昇となった。予想は1.1%となっていたことで、この予想を大きく下回った。エネルギーコストが1.7%低下し、2009年11月以来の低水準となったことなどが背景にある。さらに9月の域内失業率は過去最悪の12.2%と発表された。ユーロ圏域内GDPは第2四半期にプラス成長となったものの、物価はECBのインフレ目標の2%を大きく下回り、雇用も悪化している。外為市場でのユーロの上昇もあり、ECBは「12月」の政策委員会で利下げを実施するとの見方が出ていた。

 これまでのECBの金融政策変更のパターンを意識すれば、11月の総裁会見で12月の利下げの可能性をほのめかし、市場にその意向を浸透させた上で、12月に決定との見方が多かったと思われる。ただし、一部に11月7日に利下げを決定するのではとの見方があったことも事実である。今回、ドラギ総裁は、バイトマン独連銀総裁が中心となる理事会メンバーの約4分の1の反対を押し切って、利下げを決断した(ロイター)。

 今回のECBの電撃利下げは今後のECBの金融政策を見る上で、いくつかの注意する必要がある。FRBや日銀などと異なり、大所帯(理事会メンバー23人)となり、しかも国を跨いでいるECBでは政策変更に向けてコンセンサスを形成するにはある程度の時間も必要とみられた。そのためトリシェ前総裁は一月前の示唆というパターンを作っていたとみられるが、ドラギ総裁はそうではなくある程度の意見が固まれば、多少の反対があっても時を置かずに金融政策を変更するということを今回示した。これによりECBの金融政策に対する市場予想にも変化が生じ、その分市場の波乱要因ともなりかねない。

 ここで注意すべきは金融緩和については、今回のようなサプライズの方が効果的であるという事実である。実際にどこまで意図したのかはわからないが、今回の利下げ決定により急激なユーロ安を招く結果ともなった。反対に金融引き締めに関しては、徐々に市場に織り込ませる必要がある。FRBのテーパリング開始についても、この手法が取られている。

 ECBの金融政策の決定パターンに変化が生じたことで、今後市場で何が起きるのか。今回は先手を打っての決定であったが、これは初回しか通用せず、今後は市場も構えることになる。このため物価や雇用等の経済指標次第では、追加緩和を意識して市場が先手を打って動くことも予想される。市場が追加緩和を要求しているかのように写るかもしれないが、このような市場の動きをECBはどのように捉えるのか。

 もうひとつの問題として、さらなる追加緩和が可能なのかという点がある。利下げ幅としてはまだ0.25%はあるとはいえ、すでに実質的なゼロ金利政策に近い。預金ファシリティー金利をマイナスにすることもあるかもしれないがすでに限界に近い。金利そのものを操作できるのは、あったとしても残り一回となる。そうなると別の手段を講ずる必要があり、エコノミストの間では追加LTRO実施の可能性を指摘する声も上がっているが、その政策手段は限られよう。たとえば国債の買入はあくまで危機対応であったはずである。今回の電撃利下げは、このような追加措置が必要とならないようにするため、早めに手を打ってきたとも言えるのではなかろうか。

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by nihonkokusai | 2013-11-10 17:31 | 中央銀行 | Comments(0)
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