異次元緩和の限界、アベノミクス登場からまもなく1年
安倍首相はあらたな金融経済政策について「三本の矢」という表現を使った。一本目の矢は日銀が大胆な金融緩和をする。二本目は、政府が財政政策で実需を生み出す。三本目は、TPPや大胆な規制改革などを含む成長戦略である。その一本目の作戦を具体化したのは2013年3月20日に日銀総裁に就任した黒田東彦氏である(以上、拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」より一部引用 )。
果たしてアベノミクスと呼ばれた金融経済政策は何であったのか。1年経過した時点で総括する必要もあるのではなかろうか。特にアベノミクスの支柱ともいえた異次元緩和政策の効果について検証しておく必要がある。
物価や景気動向に関する指標を確認すれば、アベノミクスの登場以降は上向いていることがわかる。これを見る限り、効果は絶大であったとの見方もできるかもしれない。アベノミクスという言葉も持てはやされ、今年の流行語大賞の候補のひとつになると思われる。それでは実際のアベノミクスと呼ばれるものは、具体的にどのような作用を及ぼしたのか。
11月以降の急激な円高調整とそれに伴う株高については、安倍自民党総裁のリフレ発言がきっかけとなったことは確かであろう。ただし、この時点では安倍首相は何もしていない。リフレ派のいうところの「期待」に働きかけたとされるかもしれないが、相場に急激な動きが生じた際には、通常は「投げ」や「踏み」が入っている。つまり買われ続けた反動の投げが投げを呼ぶ急落、もしくは売られ続けてショート(空売り)が溜まっていたところの買い戻しの連鎖である。
昨年11月以降の急激な円安は、円を買い仕掛けていた向きの投げが誘発されたことによる。それは安倍氏の発言に促された面はあるが、それ以上に円高を仕掛けていた理由そのものに懸念が生じていたことが大きい。つまりは欧州の信用リスクの後退が背景にあった。アベノミクス登場のタイミングでのヘッジファンドの円売り仕掛けも効果的であった。この円安が株高を招き、世界的なリスク後退の波に乗り、景気も回復基調となり、円安やエネルギー価格の上昇が予想を多少上回る物価の上昇を招くことになる。
ここに4月4日の日銀の異次元緩和がどのように絡んで来るのか。安倍首相の発言をそのまま具体化したのが異次元緩和であり、これは市場の期待を裏切ることはなかった。ところが、円安の動きは5月にドル円が103円台まで上昇したあたりでブレーキが掛かる。異次元緩和で円安が生じたというよりも、安倍氏の発言をきっかけに、リーマン・ショックと欧州ショックという連続した世界的な金融経済危機以前の水準に戻されただけとも言える。つまりこのの円安はあくまで異次元緩和による影響というよりも、世界的な危機の後退が背景にあったと言える。
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