聞け! 是清の警告
ここであらためて、この本の内容をご紹介したいと思います。アベノミクスは約80年前の高橋是清による金融経済政策(高橋財政)を参考にしていたことは、安倍首相や麻生財務相の講演の発言内容などからも明らかです。リフレ派と呼ばれる人達も、デフレ脱却に高橋財政を参考にしていることは、現在日銀副総裁の岩田規久男氏が著者・編者となった「昭和恐慌の研究」(東洋経済新報社)などの著作を見ても明らかです。
高橋財政の柱は、1931年の金輸出の再禁止をきっかけとした円安政策、金融緩和策、そして財政政策となっています。リフレ派が特に注目したのが高橋是清が主導した日銀による国債引受でした。これにより急速にインフレ期待が高まり、世界最速でのデフレ脱却に成功したとの見方です。
拙著「聞け! 是清の警告」では高橋是清という人物を浮き彫りにするともに、アベノミクスと高橋財政の比較を行っています。世界的な恐慌や大きな震災も経験するなど時代背景も似たところもあります。このあたり宮崎駿監督の「風立ちぬ」でも描かれていたものでした。
私が高橋財政で特にスポットを当てたのは、日銀による引受方式による国債発行です。この直接引受は、当時の国債の主な消化先である大蔵省預金部と銀行シ団での引受が難しくなっていたことで是清が生み出した手段であり、中央銀行による国債引受そのものでインフレ期待を高めようとしたわけではないというのが私の見解です。
これに対して、アベノミクスは市中消化余力はまだある日本国債を大量に日銀が買い入れることで、リフレ派の指摘するところの日銀による国債引受と同様のマネタイゼーションを意識させる効果を狙ったもののように思われます。それは昨年11月の安倍総裁による輪転機発言などにも現れていました。これにより円安を加速させ、株高を招くこととなりました。
高橋財政がデフレ脱却に成功したのは、日銀による国債引受によるインフレ期待が主要因というよりも、金輸出禁止にともなう円安や金融緩和策による影響が大きく、昭和恐慌により大きく落ち込んでいた日本経済の回復余地も大きかったことを考慮にいれておく必要があります。
高橋財政では軍事費の拡大も影響し、重化学工業への移行期も重なり、日銀の引受方式での国債発行が容易になったこともあり、積極的な財政政策も可能となりました。このように実際に資金がうまく回る下地があったことが高橋財政がデフレ脱却に成功した大きな要因です。
高橋是清はさすがに日銀の国債引受の弊害も意識し、日銀が引き受けた国債を銀行に売却するという手段も引受開始のタイミングに合わせて実施しています。これはインフレ期待を高めるものではなく、インフレを抑えるための手段でもありました。
次第に銀行による国債の買入が貸出増などにより減少し、インフレの懸念も高まりました。財政規律も守ろうとして緊縮財政を打ち出した是清は、軍部により暗殺されてしまいます(2・26事件)。蔵相を何度も経験し、首相や日銀総裁の経験もあり、日露戦争の資金調達にも貢献した是清は、当時の国内で最も財政金融に長じていた人物であったと思われます。是清であれば軍部を抑えられると自他共に認めていたと思われますが、その是清も日銀による国債引受という打ち出の小槌を軍部から取り上げることはできなかったのです。
この是清の教訓は現在の安倍政権による政策(アベノミクス)にも生かすべきです。2%の物価目標というための日銀による国債買入は、現在はうまくいっていたとしても、今後長期金利が上昇するようなことになれば、民間の国債消化に支障が出て国債の消化先としての日銀への依存度が高まる恐れもあります。国債への信認低下が起きてしまうと取り返しのつかない事態も発生しかねません。高橋財政後の日本国債の利回りは低く抑えられていましたが、当時の外貨建ての日本国債の利回りは大きく上昇していました。
高橋財政とは何であったのか、高橋財政後に日本では何が起きたのか。これを一度振り返っておくことも重要だと思います。ぜひこのあたり「聞け! 是清の警告」を読んで確かめていただければと思います。
拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」、発売中です。
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