風立ちぬの時代との類似性
この風立ちぬの時代背景は、まもなく出版される拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓 」の内容とシンクロしている。風立ちぬの時代は主に1920年代から1930年代を中心とした日本が描かれていた。高橋是清が活躍した時代と重なるのである。
ロイターは8月7日に「「風立ちぬ」は日本への警告か、震災と不況が重なる今と昔」との記事を出しており、そのなかでこのような記述があった。
「アニメーション研究家の氷川竜介氏は、映画で描かれている1923年の関東大震災と30年代の恐慌が、2011年の東日本大震災と近年の日本経済の低迷に重なるところがあると指摘」。
映画「風立ちぬ」の中に現在の日本への警告が含まれていると指摘する声も上がっているが、実際に映画を観てそれは感じた。日本はまだまだ貧しく震災や不況、それによる失業等々が人々の生活を苦しめる一方、身の丈を考えずに戦争に向けて突き進んでいた時代であった。
ロイターの記事では、「有権者はアベノミクスを概ね好意的に評価しているが、中には憲法改正について不安を感じている人もいる。」とある。軍国主義の時代に戻るようなことは考えづらいものの、憲法改正の動きはそれを感じさせる。それだけではない。安倍政権が打ち出したそのアベノミクスの中心に位置する日銀のリフレ政策にもかなりのリスクが含まれている。
風立ちぬで描かれた時代は、関東大震災や世界恐慌の影響を受けた昭和恐慌、井上デフレとも呼ばれた不況があり、それに対処するために登場したのが高橋財政である。その高橋是清の財政政策は結果として軍事産業を発展させることになる。風立ちぬでもその大手財閥企業が登場し、海沿いの工場からの煙が重化学工業の発展を示していた。
高橋財政では財政拡大のために是清が採った国債発行を容易にさせる日銀による国債引受が、結果として軍事費拡大にも対応しうる体制を整えてしまうことになった。是清自身はこれにブレーキは掛けられると自らも、周りからも認識されていた。ところがデフレ解消後、是清が出口政策をとろうとしたところ、軍部と対立しその結果2・26事件で高橋是清は暗殺されてしまう。ゼロ戦などを大量に作ろうとした軍部にとり軍事費の拡大は必要であり、日銀の国債引受という打ち出の小槌は手放すことはできなかった。結局、ブレーキは掛けられず、そのまま日本は戦争に突入し、戦後のハイパーインフレを迎えることになる。
そして現在、日銀による国債の大量買入が財政規律を失わせるとともに、消費増税を含めて、財政再建を先送りするようだと高橋財政時の日銀による国債引受と同様に、財政ファイナンスと認識される懸念が出てくる。日本の財政は悪化しており、国の借金は1000兆円も超えている。
宮崎駿監督は安倍首相が推進する憲法改正について批判しているが、現政権が軍事費を拡大することは考えづらいにしても、このあたりの動きが高橋財政後の動きにオーバーラップする。円安株高によって見えなくされているアベノミクスのリスクもあらためて認識すべきであり、安定政権となった現政権が危険な方向に向かわぬよう我々は監視の目を強める必要があると思う。
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