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日本だけが中央銀行への依存度を高めてしまうリスク

e0013821_9501259.jpg 高橋是清が1931年12月に蔵相に就任し、直ちに禁輸出を再禁止し高橋財政がスタートするが、この背景には世界恐慌と呼ばれる世界的な経済金融危機が発生し、それが旧平価に対し円がとくに弱かったタイミングで金本位制に移行した日本を直撃した。

 1929年に米国で大恐慌が発生した。当時の対米輸出の中心であり、外貨獲得の主役であった生糸輸出の破綻を通して国際収支を圧迫した。生糸だけでなく鉄鋼、さらには米など農産物等の物価も急激に下落。農村では米価の下落に加え、冷害も加わり、多大な影響を受けた。株価も急落し、物価や株価の下落により中小企業の倒産が相次ぐ。失業者が街にあふれ、「大学は出たけれど」が流行語となった。これらにより国民一般の購買力も大きく低下した。いわゆる昭和恐慌であり、金の流出を避けるため、財政健全化の必要から緊縮財政となり、強力な金融引き締め策も相まって、デフレに陥った。時の蔵相の名前から井上デフレと呼ばれた。

 2008年のリーマン・ショック、2010年あたりからの欧州の信用不安の拡がりもまた、1929年の世界大恐慌と同様に百年に一度とされる世界的な金融経済危機を発生させた。日欧米の危機封じ込め作戦の中心にあったのが、中央銀行による国債の買入を主軸とした非常時の対応策であった。時間を稼ぐための手段ではあったが、結果として危機封じ込めに成功したといえる。すでにギリシャの長期金利の動向が問題視されるようなことはなくなり、格付け会社の動きが大きなニュースに取り上げられることもなくなった。米国の株式市場は過去最高値を更新してくるような状況になった。

 日米欧の中央銀行が非常時の対応を行ったことにより、市場は中銀依存度を高める格好となった。それがバーナンキ・プットやドラギ・マジックと呼ばれ、日本ではアベノミクスと呼ばれた。

 百年に一度とされる危機が去りつつあるのであれば、過剰な痛み止めの投与は少しずつ減らす必要がある。FRBはその準備を進め、9月のFOMCで購入する債券の金額を徐々に減少させることを決定し、量から金利、つまり非伝統的な手段から通常手段に移行しようとしている。ECBやBOEもフォワード・ガイダンスを持ち込むことで、やはり量からの撤退を行いつつある。そのようななかにあり、世界的な危機が後退しつつあるにもかかわらず、大胆とか異次元とか呼ぶような金融政策を行っている中央銀行がある。

 高橋財政はたしかにデフレからの脱却を意図したものであるが、それは過去まれに見る不況からの脱出を計ったものである。それに対してアベノミクスと呼ばれる政策は長きにわたる日本のデフレの状態からの脱却を目指すとして、非常時の対策をさらに強化して実行してきている。欧米が市場の中銀依存度からの脱却を図っているのに対して、日本ではむしろそれが強化されてしまっている。

 高橋財政の際も非常時の対応から脱却しようとして、その中心にいた高橋是清が軍部により暗殺されてしまう。予算獲得のために中銀依存度を後退させるようなことはできなくなった。アベノミクスでは財政健全化を唱えているものの、その要のひとつ消費増税についても決めあぐねているばかりか、消費増税で景気悪化を招いた際には、日銀の追加緩和を求める声も出ている。

 バズーカ砲と呼ばれた異次元緩和の第二弾が実施されると、高橋財政時の日銀による国債引受という手段となんら変わらないとの認識も出てくる恐れがある。市場関係者からは、それでも特に問題はなかろうとの声もある。果たしてそうなのか。危機が去っても中銀依存度をさらに高めてしまう中銀の末路を確かめる意味でも、高橋財政後の日本の財政金融状態を再確認すべきではなかろうか。

拙著「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」を参考、ご予約受付中です。



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by nihonkokusai | 2013-08-08 09:25 | 日銀 | Comments(0)
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