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アベノミクスと高橋是清

 「アベノミクスとは何か ~日本経済再生に向けた日本の取組みと将来の課題~」という題の麻生太郎財務相の米ワシントンDC講演には下記のような発言も記されている。

 「確かに、日本は長きにわたるデフレーションを経験した唯一の国ですが、それはあくまで戦後の歴史について言った場合です。戦前まで振り返ってみて言わねばならんことは、日本は、デフレーションからの脱却をやってのけた数少ない国のひとつであったという事実です。」

 「ジョン・メイナード・ケインズが『一般理論』を出版したのは 1936年です。しかしそれ以前の1930年代初頭に、日本でケインズ経済学的な政策を行った人物がいます。それが高橋是清です。彼は 20世紀初頭に財務大臣を 6度、総理を1度務めました。」

 「彼は、まさに、いま私たちがしていることをやって日本を救いました。大胆な金融緩和と財政出動がデフレーションのスパイラルを止めました。今日の私たちのように、彼も大胆かつ迅速に行いました。まさに、「衝撃と畏怖(shock and awe)」の政策でありました。ルーズベルトは、高橋からインスピレーションを受けたと言ったと言われますが、それほどのものであったのです。我々の先輩にデフレーションからの脱却に成功した人物がいると思うと、勇気づけられます。我々も、彼の後に続きたい、そう思います。」 (財務省「アベノミクスとは何か ~日本経済再生に向けた日本の取組みと将来の課題~」より)

 1929年7月に金輸出解禁の方針を掲げた浜口内閣が成立し、緊縮財政への転換と国民への倹約の呼びかけを行い、1930年1月に旧平価により金輸出を解禁した。しかし、旧平価に対し円がとくに弱かった時期に金本位制への復帰が発表されたため、物価と輸出が急速に低下し、大量の金が輸出解禁とともに海外に流出し、アメリカから始まった世界恐慌の影響も受けて国際収支も悪化し、日本の景気は急速に悪化することになり、デフレーションに陥った。

1931年9月にイギリスが金本位制を離脱、同年12月の犬養内閣の成立にともなって高橋是清が蔵相に就任すると、直ちに金輸出が再禁止され、1932年1月には「銀行券の金貨兌換停止に関する勅令」の公布施行により、金兌換が停止され、日本は金本位体制から離脱し、日本銀行券の兌換も原則として停止された。

 金本位制を離脱したことにより、金の保有量に制約されずに積極的な財政政策を行いやすくなり、大量の国債発行による公共事業や軍事への投資が可能になる。ただし、当時の国債市場は未整備であり、「当時の国債発行は、民間金融機関が引受けシンジケート団を組成して引き受けるか、郵便貯金等を原資とする預金部が引き受けるかたちが中心であり、多額の国債を速やか、かつ円滑に消化する方法はありませんでした」(2011年5月の日銀白川総裁の講演より)。

 このため大量の国債発行を円滑に進めるために高橋是清が取った手段が、日銀による国債引受であった。ただし、高橋是清の存命中の日銀引き受けは、売りオペを前提として行われたものであり、日銀は速やかに引き受けた国債の市中売却を進め、日銀による国債の保有残高やマネタリーベースが大きく増加した訳ではなかった。

 高橋財政期に為替レートが円安になったことも、デフレ脱却に繋がったわけであるが、これについては金本位制から離脱することによって、金本位制の下で人為的に割高に設定されていた固定為替レートが是正されたことによるものである。金本位制から離脱する前に経済そのものがアク抜けしていたことも日本の景気回復の要因とされている。このあたり、アベノミクスによる円安と似ている面がある。

 高橋是清は日銀総裁も経験している。むしろ副総裁のときの日露戦争の戦費調達のための海外での国債発行を成功させたことのほうが有名であったかもしれない。高橋是清はいまで言うところのハト派であり、高橋財政の際にも公定歩合の引き下げを行い、日銀の通貨発行限度額の引き上げも実施している。これは「適正量の通貨供給」を目的とした。つまりマネーサプライの増加である。利下げにより国債の利回りそのものも低下し、当時とすれば低利での国債発行を可能にさせている。

 アベノミクスと麻生財務相の言うところのタカハシノミクスには、たしかに類似した面もあるが、外部環境には大きな違いもあった。その大きな違いのひとつに国債市場がある。未整備であった高橋是清の時代に比べ、現在の日本の国債市場は世界最大規模となっている。高橋是清の政策は日銀による国債引受という禁じ手を使ったものの、その目的はマネタイゼーションというよりも、金解禁による円安や低金利政策等による景気回復にあった。それに対してアベノミクスは日銀による国債引受という禁じ手は形式上は使っていないものの、昨年11月の安倍自民党総裁の輪転機発言にみられるようなマネタイゼーションを意識していた面もみられ、それに市場が「衝撃と畏怖」を感じた。現実に日銀は国債発行額の7割強をオペで買い入れることになった。

 今後、アベノミクスによりいったいどのようなことが起きるのか。それを占う上でも、タカハシノミクスを相違点等含めて、あらためて見つめ直す必要がありそうである。

アベクロ政策と国債問題

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by nihonkokusai | 2013-05-09 08:59 | 国債 | Comments(0)
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