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日銀の異次緩和による国債市場への影響

 4月4日に新体制となった黒田日銀が打ち出した大胆で次元の異なる緩和策は、コアCPIの2%という物価目標に対して、2年程度の期間を念頭に置いて、早期に実現するため、マネタリーベース(現金通貨と日銀の当座預金残高)および長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍程度とし、長期国債の平均残存年数を現行の2倍以上にするというものである。つまり、その中心となるのが大規模な国債の買入によるマネタリーベースの倍増であり、またイールドカーブ全体にわたって引き下げようというのが中間的な目標(総裁会見より)となっている。

 国債のイールドカーブ全体の低下を促すことを目的に、長期国債の保有残高が年間50兆円に相当するペースで増加するよう買入を行う。長期国債の買入対象を40年債を含む全ゾーンとし、買入の平均残存年数を現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長する。この結果、毎月の長期国債のグロスの買入額は7.5兆円規模(これまでは3.8兆円程度、4月の買入予定額は6.2兆円)になる。2013年度の長期国債のカレンダーベースの発行予定額は126.6兆円となっており(年間発行額156.6兆円から短国の30兆円を差し引いたもの)、7.5兆円の12か月で88.7兆円をグロスで日銀が購入するとなれば、毎月の発行額の70%を買い入れることになる。

これについては総裁会見の際に記者から日銀が「池の中の鯨」となる懸念が示されていた。それに対して黒田総裁は次のように答えている。

 「国債の価格形成に一番重要なのは、おそらくストックの話だと思います。ストックでは、7割などということには到底なりません。従って、市場に大きな歪みを生じることにはならないと思います。」

 これは少し違うのではなかろうか。国債価格の形成には流通している国債の金額が大きく影響している。

「これまでのいわゆる資産買入等の基金では、残存期間 1~3 年の国債を買ってきましたが、その際も、実は、グロスの買入れ額は発行額の7割に達していました。今回やろうとしていることは、いわば全てのゾーンに拡げてやっていこうということであって、これまで以上に市場金利の形成をそれぞれのゾーンでやり難くすることは意図していません。」

 ほとんど現金に近い状態となっていた1~3年債と長期債、さらには超長期債の流動性にはあきらかに違いがある。現実に日銀が超長期債も購入するのではとの観測が出てからの超長期債の値動きは不安定となり、4日以降も一時20年債、30年債が1%を割り込んでから、急落するなど流動性がかなり意識された動きとなった。いわゆる流動性リスクプレミアムがオンされたような状態となった。

 その反対にこれまで日銀が大量に購入していたことで、市場機能が低下して利回りが低位安定していた中短期債については、一部期待のあった超過準備の付利が撤廃されなかった事に加え、今後の日銀の短期債の購入額が不透明となったこともあり、これまで市場機能(価格発見機能)が低下していた中短期債の市場機能がいきなり回復し、2年債や5年債の利回りが大きく上昇した。

 大手銀行による5年債を中心とした売りが5日と10日に入ったとみられ、それがさらに相場の変動幅を大きくする結果となった。この売りの理由は推測する他はないが、歴史的水準にまで利回り低下したことや、期初というタイミングなど含めて、中期ゾーン主体に銀行あたりからとみられる利益確定売りが入ったと思われること。さらに短期債含めて、超過準備の付利が温存されたことで、引き下げもしくは撤廃を意識されて利回りが低下していた分が戻されたこと。これまでは基金による買入などは中短期債主体に行われ、市場機能が低下していたところ、買入の主体がもう少し長めの期間のものに移った結果、中短期債の価格発見機能が息を吹き返して上昇した面もあったとみられる。10日の中期債の売りについては、リスク管理手法の影響なども指摘されていた。

 この動きに対しては日銀は、11日に対策を講じた。午前中に初の1年物の共通担保資金供給(全店、固定金利)オペ1.5兆円をオファー。午後にも1年物2兆円と、1か月物8000億円の計2.8兆円をオファーし、1日の供給額としてはオファーベースで4.3兆円と、震災後の2011年3月23日の計5兆円の規模に迫った。期間や金額を見てもいかに日銀が危機感を抱いていたかがわかる。

 さらに市場参加者からの要望もあった長期国債買入れのオファー日程も公開した。あくまで11日の発表分は翌日の分だけではあったが、これで買入のスケジュールが読めないことによる不安定さはなくなるかもしれないが、事前の価格操作への懸念も残ることになる。

 4日にはエコノミストを集め、11日には市場参加者との意見交換会も開催された。11日は初回という意味合いもあってか銀行や生損保、証券会社などの役員または執行役員が対象となるそうである。その後、現場担当者との会合が開催されるであろうことが予想されるが、今後の鍵ともなるのが市場との対話となる。

 大胆な金融緩和により債券市場では流動性リスクを意識した動きが出た。これが信用リスクに波及することはなかったものの、将来はそのリスクが顕在化する可能性がないとは言えない。

 4月4日の日銀による量的・質的金融緩和の導入に際しては、政府の意向を強く反映したものではあったが、目的は当然ながら財政ファイナンスではなくデフレの脱却であった。ところが、打ち出した政策を見ると、これまでフィスカル・ドミナンス(財政従属)ではないことを示すために設けていた自らの制限を取り除いていた。

 すでに形骸化はされてはいたが、日銀保有の国債残高が日銀券の発行額を上回らないという銀行券ルールがそのひとつであった。さらに資金供給のための通常の国債買入(通称、輪番オペ)は発行年限別の直近発行2銘柄を除いていたが、そのルールも撤廃した。基金による国債買入はこれが適用されていなかったが、今後は2年債だけでなく、5年債、10年債などもこの制限なしに買入が可能になる。

 4月4日の決定会合後の公表文では、わざわざ「長期国債の買入れは、金融政策目的で行うものであり、財政ファイナンスではない」と明記している。明記することで財政ファイナンスではないことを示したとの見方ができる一方、明記せねばならないぐらい危ない橋を渡っていることの現れとの見方も一部にあった。

 今後もし日銀が財政ファイナンスを行っていると捉えられてしまうと、今度は流動性リスクプレミアムだけでなく、財政プレミアムがオンされてしまう懸念があり、日銀はそれに対してもはっきりとした歯止めを見せることも必要となってくると思われる。

 今後の国債の動きには債券市場関係者ぱかりでなく、幅広く関心が高まる可能性がある。日銀の異次元緩和による国債市場の混乱を理解するには、国債そのものの理解も必要になる。そのためにはぜひ、本日出版された拙著「アベクロ政策と国債問題 [Kindle版]」をぜひダウンロードしていただけるうれしい。前作「アベノミクスを理解するための日銀入門[Kindle版]」と同様に牛さん熊さんの会話形式で読みやすくなっている。ぜひご一読を。

アベクロ政策と国債問題

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by nihonkokusai | 2013-04-15 09:47 | 国債 | Comments(0)
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