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フィスカル・ドミナンス

 3月6日、7日に開催された日銀金融政策決定会合議事要旨が発表された。3月の会合の時点ではすでに次期日銀総裁と副総裁候補が発表されており、あらたな執行部を中心に大胆な金融政策を4月の決定会合で行うであろうことは予想されていた。その意味では、その大胆な政策への橋渡しとともに、リスクへの忠告も組み入れられたものになっていたように思われる。

 「何人かの委員は、長期国債の買入れ方法を検討するに当たっては、中央銀行による大量の国債買入れが財政従属(fiscal dominance)ではないという信認を市場から得ることが重要であり、具体的な制度を設計する際には、こうした点に細心の注意を払う必要があると付け加えた。」(日銀金融政策決定会合議事要旨より)

 これも忠告のひとつであろう。この何人かの委員には、当然、白川前総裁が含まれているはずである。白川総裁は2月の講演で次のような発言をしている。

「政府にも日本銀行にも規律、ディシプリンが求められます。日本銀行の規律を規定するのは、物価の安定と金融システムの安定を通じて持続的な成長に貢献するという中央銀行に課せられた目的です。政府に求められるのは財政規律です。この点、政府は「財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取り組みを着実に推進する」方針を明確にしています。一旦信認が低下し経済が混乱してしまうと、その時点では、中央銀行の採り得る政策の余地は限られてきます。エコノミストはそのような状態をフィスカル・ドミナンスという言葉で表現していますが、そうした事態を未然に防ぐためには、財政改革に取り組み、中長期的な財政規律を維持することが重要です。」

 白川前日銀総裁は著作でもフィスカル・ドミナンスに触れており、財政が金融政策を左右し物価に影響を与える状況をフィスカル・ドミナンスと呼ぶと指摘している。東短リサーチの加藤出氏もコラムで、「フィスカル・ドミナンス」(財政による支配)と超金融緩和策の関係に関する議論が海外のエコノミストの間で活発になっていることを指摘している。

 4月4日の日銀による量的・質的金融緩和の導入に際しては、政府の意向を強く反映したものではあったが、目的は当然ながら財政ファイナンスではなくデフレの脱却であった。ところが、打ち出した政策を見ると、これまでフィスカル・ドミナンスではないことを示すために設けていた自らの制限を取り除いていた。

 すでに形骸化はされてはいたが、日銀保有の国債残高が日銀券の発行額を上回らないという銀行券ルールがそのひとつであった。さらに資金供給のための通常の国債買入(通称、輪番オペ)は発行年限別の直近発行2銘柄を除いていたが、そのルールも撤廃した。基金による国債買入はこれが適用されていなかったが、今後は2年債だけでなく、5年債、10年債などもこの制限なしに買入が可能になる。

 4月4日の決定会合後の公表文では、わざわざ「長期国債の買入れは、金融政策目的で行うものであり、財政ファイナンスではない」と明記している。明記することで財政ファイナンスではないことを示したとの見方ができる一方、明記せねばならないぐらい危ない橋を渡っていることの現れとの見方も一部にあった。

 輪番オペでは、直近発行2銘柄を除くにしたのかという理由は、取引が活発でペンチマークを形成している発行直後の銘柄を対象銘柄から除けば、ベンチマーク銘柄について市場での価格形成を歪める惧れはないと考えられるとしていた。裏を返せば、その適用を除いたことで、今後は日銀の買入により、ベンチマーク銘柄について市場での価格形成を歪める可能性があるということにもなる。さらに直近発行2銘柄を除くということで国債引受との見方も排除することも意識されたものと思われた。

 フィスカル・ドミナンスというのは、あくまで政府側の態度次第ということになる。政府が財政規律を重んじている間は、日銀による大胆な国債買入がフィスカル・ドミナンスだと認識されることはないであろう。それでも、国債発行額の7割も中央銀行が買い入れるというのは、日本の財政問題を見えにくくさせ、仮に今後物価が上昇してこない際には、積極的な財政政策が用意されることも想定される。そうなればフィスカル・ドミナンスとの認識が広まる懸念がある。いったんそのような認識が広まれば、国債や通貨に対する信認の問題となりかねない。今回の異次元緩和は大規模な実験とおっしゃった方がいたそうだが、かなりの劇薬を使用したものであり、実験がもし失敗に終わると被害は広範囲に及びかねないものだとの認識も、政府・日銀には持っていただきたい。やってしまった以上は成功を祈るほかはない。

アベノミクスを理解するための日銀入門

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by nihonkokusai | 2013-04-11 09:05 | 日銀 | Comments(2)
Commented by keiko at 2013-04-12 08:31 x
4月10日の会見で黒田日銀総裁は「出口戦略の議論は時期尚早、長期国債を売らず超過準備への付利を上げて対応できるとしているFRBが参考になる」と発言してます。 出口戦略の議論が時期尚早とは原発は津波が発生してから対策を考えるというに等しく、言語道断だと思います。お聞きしたいのは準備金の付利を上げて長期国債の金利を低いままに保つ事が技術的に可能なのでしょうか? そうであれば金融機関は国債は全て売り日銀の当座預金に預けるので長期金利は急騰すると思うのですが?
Commented by nihonkokusai at 2013-04-12 09:59
黒田総裁は、日銀が長期金利をコントロールできるという前提を置いているとすればそれは大きな間違いだと思われます。日銀は長期国債を売らなくても、ご指摘のように民間金融機関は売るでしょうね。出口はそんな簡単なものではないと思われます。
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