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アベノミクスの矛盾と国債市場への影響

 アベノミクスが市場の「期待」に働きかけ、円安・株高を加速させたことについては認めざるを得ない。ただし、実際にアベノミクスと呼ばれる政策が果たしてどのような効果を生むのかについては、その政策はほとんど実行されていないこともあり、現時点では立証できない。とにかく円安株高という結果だけが強調されかねず、それはアベノミクスの矛盾を覆い隠し、のちのち金融市場そのものの波乱要因となりかねない。

 西村康稔内閣府副大臣は9日、円安・株高は期待先行で非常に不安定な基礎に立って進んでおり、政策効果による裏付けが必要だと強調した(ブルームバーグ)。政府関係者からこのような発言が出てくるのはむしろ意外感があった。

 西村副大臣は安倍晋三政権誕生に伴う為替・株式市場の動向について「ものすごくスピード感のある円安、株高になっている」と指摘し、その背景として、米国経済回復の兆しや欧州債務危機の鎮静化、日本銀行の大胆な金融緩和への期待を挙げたそうである(ブルームバーグ)。私は西村副大臣の発言は直接聞いていないので、詳しいことはわからないが、「日本銀行の大胆な金融緩和への期待」の前に「米国経済回復の兆しや欧州債務危機の鎮静化」を挙げていたとすれば、現在の円安株高の本当の背景がアベノミクスとは異なるところにあったという、言ってみれば当たり前な判断をしている。これが意外に思えるほどに、アベノミクスへの期待が本来の背景を覆い隠しているように思われる。

 8日にはアベノミクスの仕掛け人とも言える浜田宏一内閣官房参与(米エール大名誉教授)も講演をしており、その中で浜田氏は「誰もインフレが好きではないが、インフレ的な雰囲気を作らないと景気はよくならない」と指摘。「物価目標は次善の策。物価上昇なき景気回復ができれば、それは最善」と述べ、機械的に2%の物価目標を目指す必要はないとの見方をにじませたそうである(ロイター)。

 どうやら梯子を掛けた張本人が早速、その梯子を外しに掛かったかのような発言である。この発言から察するに、日銀が無理矢理な政策、フレキシブル・インタレターゲットのフレキシブルの部分を外すような政策を意図していたはずが、西村副大臣の言うところの米国経済回復の兆しや欧州債務危機の鎮静化により、日本経済が回復してくればそれで良い的な発言のようにも思われる。ただし、浜田氏は日本経済を潜在成長率まで回復させるのは「金融政策で十分」との発言もしていたようなので、宗旨替えをしていたわけでもなさそうである。それでも発言トーンに変化が出たことはむしろ要注意かと思われる。

 当然ながらアベノミクスの最大の柱であるところの大胆な金融緩和は日銀に押しつけられており、次期総裁候補の黒田氏も11日に参院の議院運営委員会で行った所信表明後の質疑で、15年にわたりデフレを放置した日銀は責任を果たしていなかった、と述べ日銀が長期国債を大量に買うと金利下がり、デフレ期待減らすとの見解を示した(ロイター)。本当に日銀が長期国債を大量に買えばデフレから脱却できるのかは不透明ながら、とにかく積極的な政策をとらざるを得ないのが20日からスタート予定の黒田日銀であろう。

 これに対して日本の債券市場は高値圏にありながら非常に不安定な動きとなっている。1月末の2年債入札、3月8日の30年債入札では一部不明玉の存在などにより、業者を主体に大きく踏み上げさせるような状況となった。特に超長期債についてはかなり扱いにくい状況になりつつある。日銀はいきなり超長期債への購入を増やすことは考えづらいが、5年債、10年債の買入を増やすとなれば、超長期債の利回り低下も促す。しかし、本気で2%の物価上昇を信じるのであれば、ここは今、買いではなく売りでしょう、ということにもなる。積極的に日銀が国債を買い入れるとなれば、財政ファイナンスも意識せざるを得なくなり、これも超長期債の投資を慎重にさせかねない。

 8日に財務省で国債市場特別参加者会合が開催されその議事要旨がアップされた。その中で最近の国債市場の状況と今後の見通しについて、ある市場参加者からは、「国債市場にとっては堅調な地合いが続く可能性が高いと考えている。一方で、年度後半は、景気の浮揚やインフレの兆候も鮮明に見える可能性があることで、金利の乱高下とまではならないとしても多少の変動が見られる可能性に注意を払っている。」との発言があった。

 他の参加者からは「日銀による金融政策が積極化される中では、国債の低金利とリスク資産の上昇という組み合わせは日本市場でも実現しうると予想され、特に年前半では2003年につけた10年金利のボトムを抜けていくことも視野に入ってきたのではないかと考えている。」としながら、「ただし、年後半にかけて、仮に日銀による国債買入ペースが減少、すなわち新執行部のもとでインフレ見通しがしっかりと立つ状況になると、名目金利が極めて低位で安定することは需給の歪みがなければ難しいと考えている。そのため年後半にかけては、急激な金利上昇リスクを抱えながらの展開となるだろう。」

 この2人の参加者はいずれもアベノミクスの効果をある程度想定しての発言のように思われるが、いずれにしても金利がいずれ乱高下するであろう懸念を抱いているようである。

 さらにもう一人の参加者は、「思惑だけで金利低下を招いていると考えている」として、「ドル高による円安に伴う内外株価の一段の上昇を想定すると、4月以降は5年以内の短い年限の金利が上昇する余地はないと考えているが、10年、20年といったセクターについては、外部環境の改善を反映し10bp、20bp程度の金利上昇の余地があるのではないか。」としている。ただし、この参加者は「積極的な緩和が継続することが想定される。そうした場合、需給面での金利低下圧力が時間経過とともに長い年限にも浸透する可能性があると考えている。」とも発言している。

 4人目の発言者からは日銀の積極的な緩和に絡んで2つのリスクファクターを指摘している。

 「一つ目は、金融政策の方法である。新執行部が仮に2年間で2%程度のインフレを目指すことになった場合、かなり思い切った政策対応が必要になる可能性が高いが、国債の買い方次第では、例えば強引にイールドカーブを押し潰すような方法をとった場合には、その反動が懸念される。仮に金利が投資家のリスクリターンもしくはコストリターンで見合わない水準まで下がった場合、結果として需要が減退してしまうリスクもそれなりにあるのではないか。そうした場合、実質的な買い手が日銀中心ということになるため、必ずしもマーケットにとって好ましい状況ではないと考えている。」

 2003年6月のVARショックと呼ばれる国債の急落は、超長期債の金利が投資家のリスクリターンもしくはコストリターンで見合わない水準まで下がったことによる反動が大きな要因であったことを指摘しておきたい。ちなにみにそのときの水準までは、現在の超長期債の利回りは低下はしていない。

 「二つ目は、海外要因である。ここ数週間の動きについては、日本が主因というよりは米国経済の底力に対する見直しにより、米国発のリスクオンの流れになっていると考えている。米国経済が予想以上に強いという流れの中で、FRBの量的緩和の時間軸が短くなり金利が上昇するケースでは、JGBのマーケットにも多少影響が出るかもしれず、注意深く見て行く必要がある。」

 私自身は今回の円安と日本株の上昇の背景には世界的なリスクの後退によるリスクオンの動き、さらにリスク後退により世界経済の回復基調が強まったこと、そのため日米欧の中央銀行による積極的な金融緩和の効果が発揮されていることがあると思っている。そこにリフレ派のいうところの周回遅れの大胆な金融緩和政策を日本が行った際に何が起きるのか。このあたりのリスクの部分についても考えなければいけないのではなかろうかと思っている。

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by nihonkokusai | 2013-03-12 09:44 | 債券市場 | Comments(0)
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