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予想しづらい次元の違う金融政策

 政府は衆参両院の議院運営委員会理事会に日銀人事案を提示した。総裁候補に黒田東彦・アジア開発銀行総裁、副総裁候補に岩田規久男・学習院大教授と中曽宏・日銀理事と事前報道通りの人事案となった。4日に黒田氏、5日に岩田氏と中曽氏の国会での所信聴取も実施される。国会の同意については民主党が賛成に回ることが予想され、前回ような日銀総裁空席といった事態は避けられると思われる。

 これにより、3月20日から日銀執行部と呼ばれる正副総裁の3人が入れ替わることになる。安倍政権からの期待も掛かるこの新体制で、いったいいかなる金融政策が打ち出されるのか、国内からばかりでなく海外からも注目されよう。

 安倍首相は次元の異なる金融政策をお望みのようであるが、現実にはいくつかの壁が存在し、極端な変更は打ち出しにくくなると予想される。ひとつは日銀の金融政策が委員会制となっていること、つまりは多数決で決定されるため、アンチ日銀派とされる黒田氏や岩田氏がこれまでの日銀の政策と大きくことなる議案を提示しても、否決される可能性があるためである。それ以前にそもそも次元の異なる金融政策というが、そんなものが果たして存在するのかという問題がある。

 安倍首相は昨年12月の総選挙を前に、日銀法改正をちらつかせて日銀に2%の物価目標導入を迫ったが、当初は輪転機発言もあるなど、かなりマネタイゼーションを意識したような発言が目立った。しかし、さすがに日銀による国債引受のような財政ファイナンスへの懸念の声が強まり、かなりトーンダウンした。さらにG7などを経て、欧米からの政府による円安政策への懸念が伝わり、麻生財務相などは為替に関する発言をほぼ封印し日銀による外債購入の可能性も後退した。

 日銀はすでに1月に2%の物価目標を導入し、政府との共同文書も出している。今後はこの2%の物価目標を達成するための具体的に手段について検討されるとみられるが、黒田氏や岩田氏のこれまでの発言からみて、何ら新たな手段が用意されているようには思われない。

 岩田氏は2%の物価目標に向けては、日銀の当座預金残高を現状の倍以上にすれば良いとしているが、当座預金残高を引き上げての貸出増加を期待しているわけでもないという。ではどのような経路で物価が上昇するのか。それは期待による株高、期待による設備投資の増加など、期待や気合いで何とかしようとしているかに思える。さらに日銀の当座預金残高については今後の基金の増額により、黙っていても来年末に向けて現在の倍に膨らむ。しかし、それで物価目標が達成できるなどと日銀の政策委員達は判断しているわけではない。そして、もし当座預金残高を引き上げるのであれば、超過準備の付利引き下げや廃止などはできなくなる。

 結局、次元の異なる金融政策と言いながら、やれることは限られる。基金で買い入れる国債の年限を延ばす案も検討される可能性があるが、そうなるといずれ輪番オペとの区別の意味がなくなる。日銀はより長い期間の国債を買えば良いというが、そもそも現在すでに買い続けている。さらに輪番増額という手段もあるが、それにはすでに形骸化しつつある日銀券ルールの撤廃も必要である。ところがここに大きな問題が存在する。

 いわゆるリフレ派の言うところのデフレ脱却手段とは、結局のところ、マネタイゼーションしかないと思われる。ところが復興債の日銀引受を主張した岩田氏までも、日銀による国債引受については最近否定的な発言をしてきた。このあたり実際に副総裁という立場となれば、よりそのリスクを意識しよう。つまり日銀券ルールの撤廃は日銀による財政ファイナンスを意識させる行為となる。そんなルール、すでに形骸化しているとの見方もあろうが、政府による財政再建と言う言葉と同様に、とにかく財政規律は守るという意思表示は重要である。アベノミクスは期待に働きかけたが、不安に働きかければ市場はどうなるか。もし財政規律を遵守するという政府の強い意志を示さねば、長期金利にリスクプレミアムがオンされるという事態が起きる懸念も出てくる。デフレ脱却へのリスクはそこにあるし、それがデフレ脱却に向けた政策を難しくさせる点ともなる。

 つまりは現在の日銀の金融政策の延長線にしか手段はないと考えられる。リスク資産を多少多めに買おうが、とにかく量で勝負できるのは国債しかない。外債購入も欧米の顔色をうかがえばまず無理である。そんな中にあって、いかなる手段、しかも期待に働きかけられる手段を講じられるのか、ある意味、お手並み拝見と行きたいところである。

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by nihonkokusai | 2013-03-04 09:21 | 日銀 | Comments(1)
Commented by インフレと長期金利 at 2013-03-04 11:10 x
興味深く拝読しています。
最近のリフレ積極派の主張の中で、長期金利との関係について(リフレ積極論の中で長期金利との関係が言及されることはそもそも少ないように感じますが)、浜田教授が、インフレになっても、長期金利はインフレ率を超えないということがメンデルの研究でわかっているので、インフレによって長期金利は上がるが、その程度は心配するほどのものにはならないという趣旨のことをロイターのインタビューか何かの中で述べていました。私が調べた限りでは、過去、日本では、インフレ率を長期金利(10年債利回り)がほぼ常に上回っていたので、この浜田教授の発言には混乱しています。もし、この点について、何か考察があれば伺いたいと思いました。
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