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高橋財政と財政規律

 麻生太郎財務相(副総理兼財務・金融・デフレ脱却円高対策担当相)が、NHKのインタビュー番組で、「我々はいろいろ工夫しながら対応を(高橋是清の政策を)模倣している」と述べたことで、アベノミクスブームの一環として高橋是清があらためて注目を浴びるかもしれない。昨日も高橋是清について触れたが、私もブームに乗り遅れまいと、もう少し高橋是清について見てみたい。

 高橋是清については、ご存じの方も多いと思われるがその経歴はまさに波瀾万丈であった。藩命でアメリカへ留学した際には、現地で騙されて奴隷生活を強いられた。共立学校(現在の開成高校)の初代校長、初代特許局長などを務め、明治25年に日銀に入行。その後、日銀副総裁となり日露戦争の外債募集に尽力したあたりを、ドラマ「坂の上の雲」でも取り上げられていた。日露戦争後は横浜正金銀行頭取などを経て、明治44年に日銀総裁に就任した。その後政界に転じ、山本、原内閣などの大蔵大臣を務め、原が暗殺された直後、財政政策の手腕を評価され第20代内閣総理大臣に就任した。その後については昨日記したとおりである。

 麻生太郎氏が模倣しているというのは、いわゆる「高橋財政」と呼ばれたものと思われる。「財政」となっているが、これの3つの柱は財政政策だけでなく、為替レート政策と金融政策も含めたものである。しかも、時代背景を見ると確かに当時と現在の状況が似通っている部分もある。

 1927年には昭和金融恐慌が起きた。「第一次大戦後における産業界の事業整理と金融機関の不良債権処理が不完全であったことに伴う国内の金融システム問題の表面化という側面が強く、これを契機に大規模な財政資金の投入と銀行合同等の構造改革が実施された。」(日銀レビュー「両大戦間期の日本における恐慌と政策対応」金融研究所、鎮目雅人氏より引用)。

 これは1990年代後半の日本の不良債権問題とその後の金融機関の統廃合と重なる。

 1930~31年にかけての「昭和恐慌」は、「旧平価による国際金本位制への復帰という政策選択と、折から発生していた世界恐慌の国内経済への波及、の相乗効果が背景となっていた。」(同)。

 これはたとえば、サププライム・ショック、リーマン・ショック、ギリシャ・ショックによる国内の影響を考えれば、それに該当するのではなかろうか。

 その結果、当時も現在の日本のデフレと同じような状況が生じ、それに対して再び蔵相となった高橋是清は対策を講じることになる。蔵相就任当日の1931年12月13日に金輸出再禁止を命じて、日本は金本位制から離脱。この金本位制離脱直後から大幅な円安となったのである。まさに円安政策となった。財政政策では、長期国債の日本銀行による引き受けを行うことになる。金融政策面では、数度に渡り公定歩合の引き下げが行われた。

 高橋財政により、インフレ期待が強まったとされるが、さきほどの日銀レビューによれば、「金本位制離脱は人々の予想をインフレーションへと転換させた一方、長期国債の日銀引き受け開始は人々のインフレーション予想を高めたわけではなかったとの実証結果が存在する」そうである。

 今回のアベノミクスでは、当初は日銀による国債引受への懸念も出ていたが、大胆な金融政策との発言をひとつのきっかけに、円安の動きを加速させた。それにより株価も上昇し、アベノミクスへの期待が強まった。

 ただし、高橋財政については、当時の日本の状況と現在の状況が大きく変わっている点なども考慮してみなければならない。当時と現在の日本の世界の位置は大きく異なることも確かである。それとともに高橋是清という人物への期待が、財政規律の喪失という大きな問題を包み隠してしまった点も問題となる。高橋是清の経歴をみれば、国債発行による巨額の資金調達、銀行の頭取、日銀総裁、大蔵大臣、さらに首相というまさに経歴から見れば金融世界でのスーパーヒーローみたいな存在であった。

 日銀レビューにも、「財政規律の観点からは、金本位制離脱後の「高橋財政」期の予算編成においては、制度として財政規律を確保するメカニズムが存在せず、財政規律は高橋是清という個人の能力と意思に委ねられていた面が大きかった」とある。

 麻生財務相もこのあたりを意識してか、来年度予算についても財政規律を意識したものとなっている。「財政規律メカニズム」が結果として高橋財政のネックとなり、二・二六事件の要因となる。つまり日銀による国債引受という手段を取ってはいたが、高橋是清という存在が、財政規律メカニズムをかろうじて支えていたことになる。高橋財政を模倣しているというアベノミクスにおいても同様に、最も注意すべきものが、この「財政規律メカニズム」になるのでないかと思われる。

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by nihonkokusai | 2013-02-06 09:16 | 日銀 | Comments(0)
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