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リフレ派のリスク

 12月16日の衆院選挙の結果を受けて、安倍自民党総裁が政権を担うことになったが、早速、安倍総裁は政権公約にも掲げていた「大胆な金融緩和」に関して動きを示した。もちろん金融緩和を行うのは政府ではなく日銀であり、「日銀と政策協定を結んで2%の物価上昇目標を果たしていく」と安倍総裁は表明した。

 2%という物価上昇目標が過去の日本の物価の動きから見て、適格なものかはさておき、欧米では2%程度をインフレ目標にしている中銀も多く、このあたりの設定そのものにはさほど問題はない。政策協定というのが何を指すのかが不透明ながら、いわゆるインフレ・ターゲッティングを意識したものと解釈される。

 インフレ・ターゲティングとは、金融政策の最終的な目標である「物価の安定(pricestability)」を達成するにあたり、「物価の安定」を客観的に観測可能な物価指標(例:消費者物価指数)を用いて具体的数値(インフレ率や物価水準の目標値・範囲)で定義した上で明示し、その達成に向けた金融政策運営にコミットすることにより、金融政策の透明性(transparency)や説明責任(accountability)を高め、金融政策に対する国民の信認(credibility)を高める、という金融政策運営の枠組みである(財務省のレポート「インフレ・ターゲティング」をより一部引用)。 

 中央銀行の金融政策運営の枠組みを政府が変更しようとするのであれば、1997年の政権交代直後のブレア政権が行ったイングランド銀行の改革と同じような物に見えなくもない。しかし、今回の日本の場合には日銀の独立性を失わせようとの動きにしか見えない。

 そもそもこれまでの安倍総裁の発言内容を見る限り、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の意見にかなり耳を貸していることが伺える。米エール大の浜田宏一教授を内閣官房参与(経済担当)に起用することなども象徴的であろう。

 リフレ派にもいろいろあるようだが、彼らの発想として個人的に恐いと思うのが、輪転機を回せばインフレを起こせるとの発想である。現在の金融市場でそれを起こすためには、積極的な財政政策を取り、それにより国債を大量に発行し、それを日銀が「買い受ける」という手段を取らざるを得ない。しかし、この発想には当然ながら大きな問題をいくつか孕む。

 ひとつは政府債務残高のGDP比が先進国中最悪の状況となっているにもかかわらず、財政の悪化をさらに加速させても良いのかという点である。これまで大丈夫だったから、とか国債は国内が9割買っているから、というのは全く理由にはならない。日銀が買おうが政府債務は政府債務であり、それはいずれ返済しなければならない。いわゆる財政のサステイナビリティ(持続可能性)に疑問符が付けば、それは長期金利に財政リスクプレミアム、この場合、プレミアムというのも日本語からはおかしい、財政悪化上乗せ金利が生ずる懸念がある。

 さらにすでに財政が悪化している中にあっての、積極的な財政政策と日銀による積極的な金融緩和、要するにどのような形式でも日銀に国債を保有させるという手段を取らせるのであれば、それは財政ファイナンス、マネタイゼーションと認識されよう。

 インフレ期待を高める政策というのは聞こえが良いが、その手段として、いくら否定されようが結果として中央銀行の国債引受というかたちとなるのであれば、それは長期金利の上昇要因となり、いまの日本の国債残高を考えれば、とてもではないが長期金利の急騰に日本の財政は耐えられない。

 リフレ派の政策は、この長期金利の上昇という結果をもたらすリスクがある。これまで日本の長期金利はずっと低位安定し続けたから、上がるわけはないという説明に対しても全くの根拠はない。これまではとりあえず財政健全化を政権がある程度は認識していたこともあり、財政悪化懸念上乗せ金利(財政リスクプレミアム)が付いてこなかっただけである。

 金融市場にはいくらでもブラックスワンは発生しうる。いったんリスクが顕在化してしまうと、市場は暴走しかねない。それはサププライム・ショック、リーマン・ショック、ギリシャ・ショックで見てきたことであり、そうなってからは止めようがなくなる。最後には国民がその付けを払わせられることになる。それだけは避けねばならないはずである。

 キンドルの電子書籍にて書き下ろしました「超低金利時代の終わり -そして、日銀による国債引受のリスク-」(定価300円)にも日銀の国債引受のリスクについて書いてます。是非、読んでみてください。

「超低金利時代の終わり -そして、日銀による国債引受のリスク-」


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by nihonkokusai | 2012-12-19 09:39 | 国債 | Comments(2)
Commented by 金融政策の限界 at 2012-12-19 10:40 x
金利が上昇し国債の価格が下落すると中央銀行も保有する国債を売却し辛いのでは?リフレ系の方々は通貨量を増やすオペレーションのことばかり考えていらっしゃるようですが。
Commented by 日銀の金融緩和の目的 at 2012-12-24 13:13 x
私は既に財政ファイナンスの領域に足を踏み入れたと見ています。為替の変動は通貨量ではなく金利差との相関が強いと自ら言っているにも関わらず、その自ら効果が薄いと考える追加の量的緩和を行うのは、とりあえず強く言われるからやっているか、他に目的があるか、もしくはその両方ではないかと。特に最近は、量的緩和という名目で市中の国債を買い上げて、金融機関に新たな国債購入余力を作ってあげているように見えてきました。もちろん、当の日銀は否定するでしょうが。
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