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市場の潮目の変化を知るための事例

 「市場の潮目の変化」という言葉が使われることがある。潮目とは本来は速さの違う潮の流れがぶつかり合う場所で、海面上に細長く伸びた筋が見える所とされるが、情勢が変化する境目との意味で使われることが多い。潮目が変化したかどうかは、その時点では確認することがむずかしいが、時を経て見れば確認できる。

 今回は日本における市場の潮目の変化を代表する事例を2つ取り上げてみたい。

 まずひとつ目が1989年の大納会の大引けにつけた日経平均の38915円87銭である。これがそれ以降20年以上にわたる株価の最高値となり、その後のバブル崩壊、それによる金融危機、デフレの深刻化などにより日経平均は下落相場となる。ここが市場の潮目となったことは確かであろう。

 株式市場では1989年末に向けてかなり熱狂的な状況となり、投資家は日経平均の4万円乗せを疑わず5万円、6万円まで上昇すると期待していた。そんな中、冷めた目でみていた市場関係者がいたのをご存じであろうか。

 1989年5月に日銀は当時の政策金利である公定歩合を3.25%に、さらに10月には3.75%に、12月には4.25%と引き上げ、完全に金融引締策へに転じていた。日経平均はお構いなしに上昇していたが、その一方、債券相場は公定歩合の度重なる引き上げによる短期金利の上昇で長短金利が逆転してしまい、すでに総じて伸び悩みの状態となっていたのである。

 このため当時の債券市場参加者は、私を含め、上昇し続ける日経平均にかなり違和感を覚えていたと思われる。つまり潮目の変化を債券市場はすでに感じていたが、株式市場関係者の多くにはそのような認識は年が変わるまではなかったものと思われる。

 結局、年が変わり1990年は債券安・株式安・円安のトリプル安でスタートした。米国金融緩和期待の後退、ソ連情勢の悪化、日銀による公定歩合の再引き上げ観測などが要因であった。実際に日銀は3月20日に1.00%という大幅な公定歩合の引き上げを実施し、5.25%まで引き上げた。8月2日にイラク軍がクウェートに侵攻すると原油価格が急騰し、インフレ懸念が一段と高まった。その後、原油価格は下落したものの、物価上昇を気にしてか、日銀は同月30日に公定歩合を0.50%さらに引き上げ、年6.00%とする(第五次公定歩合の引き上げ)。これを受けて債券先物は急落し、9月27日には債券先物市場開設以来の安値となる87円8銭にまで下落した。株価も大きく下落し、10月1日に日経平均株価は2万円を割り込んだのである。

 もうひとつ市場の潮目の変化の事例をあげてみたい。今度は1989年の事例とは反対に、株式市場と債券市場の立場が逆転していた。それは2003年の物語となる。

 2003年といえば1月から国債のペーパレス化がスタートし、2月には財務省による国債のバイバックが開始され、また3月からは個人向け国債の発行が開始された。

 2003年5月の、りそな銀行に対する資本注入によって、大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607円88銭がバブル崩壊後の当時の安値となり底打ちした。米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め上昇基調を強めたのである。つまり、いまで言うところのリスクオフからリスクオンに転じたこととなる。しかし、そんな株式市場の動きを無視して買われていた市場がある。債券市場であった。

 2003年6月までは債券相場は1日あたりの値幅も限られながらも、じりじりと高値を更新し続け、6月11日に30年債が0.960%、20年債0.745%、そして10年債0.430%とそれぞれ過去最低利回りを記録したのである。10年債の利回り、つまり長期金利の0.430%は今年、スイスに接近されたが、過去の地球の歴史上、最低の長期金利とされる。

 この相場上昇過程において、目立ったのがメガバンクの一角や地銀を含めた銀行主体の債券買いであった。銀行などがポジションのリスク管理に使っているバリュー・アット・リスク(VAR)の仕組み上、変動値幅が少ないことでそのリスク許容度がかなり広がりをみせていた。株価の低迷にともなって債券での収益拡大の狙いもあり、必要以上にポジションを積み上げ、異常なほどの超低金利を演出した。

 しかし、これもいわゆる債券バブルに近いものであった。これについては私の反省をこめて、当時のコラムをご紹介したい。

「買われたものは確かにいずれは売られる。上がったものは下がる。けれど、上がるには上がるだけの理由がある。しかし、上がった価格が実態と乖離していれば当然その修正は入る。それでは、この国債の価格つまり長期金利は日本の経済実態と乖離しているのか。デフレ下にあって、経済成長率も低いなかにあって、日銀が短期金利をゼロにしているなかにあって、10年金利が0.5%はそれほど異常なのか」(2003年6月4日の「若き知」より)

 言い訳にもなりそうだが、6月9日に私はコラムで下記のように書いており、どうやら少しは気が付いていたようにも思われる。

 「災害も警戒している時には起きることなく、忘れたころに起きる。相場の格言に「まだはもうなり、もうはまだなり」というのがある。もうこんなに買われているなら下がるはず。ところがいっこうに下がらない。反対に、まだまだこれからが本番なんて皆が思ったりすると、反落してしまったりする。最近の株価の戻りは一時的なものと見ている人が多い。米国株に追随しているだけとの見方も強い。しかし、以前は米国株の上げ下げにあまり関係なく下げ続けていたようにも思うのだが、なんで今度は上げに連動しているのか。経済指標も決して景気の回復を示すものはない。ないが株が下げなくなったのは何故なのか。誰か無理に買っているわけでもないようである。」(2003年6月9日の「若き知」より)

 10年債金利の0.5%が異常であったのは、そのあとすぐにわかることになる。6月17日に日経平均株価は9000円台を回復し、この日実施された20年国債の利率が1%割れのクーポンとなり、大手投資家などが超長期国債の購入を手控えたことをきっかけにして、債券相場が急落したのである。いわゆるVARショックと呼ばれた債券の急落である。

 この2003年の潮目の変化は、株式市場にとり4月にあった。ところが債券はそれに2か月ほど遅れてやってきたのである。このとき株式市場参加者の心理状態は想像するほかないが、地合が変わってきているのに債券市場関係者は何を考えているのだろうと見ていたことも考えられる。

 このように市場間には、潮目の変化の際に時間差が生じることがあり、それはつまり違う市場の動きとその理由をしっかり認識していれば、自らの市場の変化にも対処できることになろう。

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by nihonkokusai | 2012-11-07 09:16 | 債券市場 | Comments(0)
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