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戦中の日銀による国債引受

 日銀による国債の引受けは、財政法第5条によって原則として禁止されている(国債の市中消化の原則)。

 財政法第5条:すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

これについて日銀のサイトでは以下の理由が書かれている。

 「中央銀行がいったん国債の引受けによって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛らなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからです。」

 いったい何故、日銀による国債の引受けが禁じられているのか。その要因となったのが、戦後のハイパー・インフレであろうが、それを引き起こしたものとして高橋是清蔵相による日銀の国債引受と、二二六事件により高橋是清蔵相が暗殺後されたあとの財政膨張による巨額の国債発行が影響している。そのあたりについて、日銀の百年史から見てみたい。

 日本の財政は二二六事件の昭和11年度から昭和20年度にかけ、10年間に約10倍になった。この主因はいうまでもなく軍事費の膨張であった。政府債務残高は昭和10年度末に100億円を若干上回る程度であったものが、太平洋戦争勃発直後の昭和16年度末には420億円弱となり、昭和19年度末には1500億円強に膨らんだ。これを国民総生産と比べると、昭和10年度末が63%であったものが、昭和19年度末には200%を超えるに至る。これは第二次世界大戦後、戦時に累積された政府債務の処理に悩んだイギリスの場合に近いものであったと百年史にはある。1944年末におけるイギリス政府債務の国民総生産に対する比率は259%であったそうである。

 昭和7年以降の新規国債の発行は原則として日銀が引受け、それを市中に売却していた。日銀の引受は7割に達していた。ただし、日銀はそれを市中に売却していたことで、保有額そのものはそれほど大きくはなかった。ただし日銀の国債引受により、事前に膨大な日銀による信用が供給され、さらに国債発行の要因が軍事支出であり、資金使途が物資消耗的性格の強い物であった。このため、日銀が国債の無制限な引受機関に化してしまったことで、決めてインフレ的性格の強いものであった。このため、戦後に爆発するインフレの十分な下地を形成したものといえると、百年史は指摘している。

 日銀保有の国債の市中への売却は、日中戦争のころまでは無理なく行われていたが、太平洋戦争に入るころから次第に困難となった。このため国債消化については強制化が強まることとなる。ただし金融機関の預金は伸びていたが、有価証券の伸びに追いつかなくなる。

 経済統制の実施により市場経済のメカニズムは失われ、金融調節などの中央銀行の機能を失わせることとなり、この間のインフレを阻止することはできなくなった。

 このことは戦時下という特殊な状況にあったためと言えるであろうが、今後もし日銀の国債引受が再開されるようなことになれば、このときと同様に日銀が国債の無制限な引受機関に化してしまう可能性があり、適切な金融政策などできなくなる恐れがある。たとえインフレ目標を設定していたとしても、適切なブレーキを踏むことはかなり困難となろう。状況は大きく違えど、もし今後、日銀による国債引受が議論されるようなことになれば、この過去の歴史を振り返る必要がある。

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by nihonkokusai | 2012-05-15 09:23 | 日銀 | Comments(0)
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