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財政の持続可能性の重要性(白川日銀総裁の講演より)

 日銀に対して政府や市場からは金融緩和に対する期待が強まりつつある。2月14日のバレンタイン緩和により、実質的なインフレ目標政策を導入し、能動的な政策対応を行うことを表明したことにより、期待が強まってしまうのは致し方ないところではある。  このため、4月27日の金融政策決定会合では、5兆円か10兆円の資産買入等の基金の増額が決定される可能性がある。国債の買入増となれば、買入の期間の延長とともに、買い入れる国債も残存1年から2年ではなく5年あたりへの延長となることも予想される。ただし、これはあくまで推測であり、2月14日のように市場にとりサプライズとなる追加緩和を仕掛けてくる可能性もある。

 ただし、このままコアCPIの前年比が目標の1%に満たないからといって、国債買入を無制限に増やし続けるとなれば、それは財政ファイナンスと受け取られる懸念が出てくる。基金による国債買入はいまのところ残存期間や買入期間などによる歯止めはあっても、金額による歯止めはない。日銀にとっては非常に危ない橋を渡ってしまったことになるが、日銀が財政の関してどのような見解を持っているのかをはっきりと示しておくことも重要となる。

 4月21日のフランス銀行主催における白川総裁の講演は、そのものスバリの「財政の持続可能性の重要性」であり、今回はこの内容をチェックしてみたい(日銀サイトにアップされた邦訳より)。

 日銀の通貨の安定を通じて経済の持続的成長に貢献するという使命の目的として、金融システムと物価の安定がある。ところが、財政の持続可能性への信認が喪失した場合に、最終的には、インフレか国債のデフォルトかのどちらか選択しかなくなる。そうなれば、日銀は物価の安定と金融システムの安定のトレードオフに直面することになるという。このようなトレードオフに直面する事態を初めから回避することが重要であり、財政の持続可能性は中央銀行が正常に機能するための必要条件だと言えると、総裁は指摘している。

 もし国債のデフォルトリスクが増大した場合、流動性リスクの増大やキャピタル・ロスの増大を通じて、金融システムが不安定化する可能性が高くなる。この場合に「最後の貸し手」として流動性を供給することになろうが、これはあくまでも「時間を買う」政策に過ぎない。これは現在、ECBが直面している問題でもある。

 そして総裁は次のような問題提起をしている。

 「しかし、財政改革へ向けての意志が弱かったり、決定された措置が実効性を欠くものであった場合は、時間を買うことの副作用も大きくなります。すなわち、金融市場の小康が保たれ国債金利が安定することで、事態の深刻さへの危機意識が薄れ、改革へのモメンタムが低下する可能性もあります。」

 これは言うまでもなく我が国の状況がそのまま当てはまるのではなかろうか。

 「その結果として財政赤字の拡大が続き、金融システム不安が再燃すれば、中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです。」

 日本の財政危機が意識され、国内金融機関などを中心に動揺が走るようなことになれば、最終的には日銀が国債を大量に買い入れることになろうが、それはいずれ制御不能なインフレを招くことは避けられない。そうなった際には、ブレーキを掛けることは困難となる。それは二・二六事件における高橋是清の暗殺などを思い起こさせるのではなかろうか。このため、総裁は以下のような発言もしている。

 「投資家や国民はそうした歴史を知っているために、どこかの時点で、言わば「レジーム」の変化を予想し、国債や通貨への信認が非連続的に変化すると、制御不能なインフレのプロセスが始まります。」

 さらに白川総裁は、あらためて日本のケースについて述べている。日本の国債金利の低さについては、「成長率と物価上昇率の動きと大きくは乖離していませんので、論点となるのは財政悪化に起因するプレミアムの解釈です。」としている。

 1998年以降の日本の長期金利の低位安定は、成長率と物価上昇率の動きつまり結果してはデフレによるものであり、さらに国内資金で十分賄われ、国債管理政策も十分機能しているとともに、国債への信認も維持されているためであろう。ファンダメンタルズや需給面では問題はないとしても、財政リスクプレミアムの動向次第では、国債金利が跳ね上がるリスクを秘めている。これは近年におけるユーロ圏諸国の国債金利の動きを見ても明らかなものである。

 「経済・財政の構造改革が進み財政の健全性は回復されるはずだ、と人々が予想しているからこそ、国債金利が安定していると考えるべきでしょう。ただ、現在のところ、そうした人々の予想は、十分に具体的な改革のプランによって裏打ちされているわけではないために、人々は将来の財政状況への不安から支出を抑制し、そのことが低成長と緩やかなデフレの一因になっていると考えられます。」

 なかなか痛烈な政治への不満と受け取れるコメントである。デフレは消極的な日銀の金融政策に起因することで、日銀法改正論議なども政治家の間で盛んであるが、デフレはむしろ財政再建を怠っていた政治家が原因のひとつであると批判しているようにみえる。

 「巨額の政府債務が、もともとの成長期待の弱さともあいまってデフレ的に作用しうる」との白川総裁の見方も、日本独自のデフレ構造を説明するものではなかろうか。そして、総裁は結論として以下のような指摘をしている。

 「生産性の引き上げを通して潜在成長率を強化することと、高齢化のもとでも持続可能な財政構造の確立が、中長期的なマクロ経済を安定化させるための最重要課題だと考えています。」

 結論というか対策としてはある意味理想的な手段ではあるものの、具体策が述べられているわけでもなく、中長期的なとの表現から見て、かなりの期間を有する手段であり、これが抜本的な解決策になるのであろうか。今後、国債金利において、財政悪化に起因するプレミアムを発生させるリスク、つまり長期金利における財政プレミアムの発生をどのように抑えるのか。財政の持続可能性が日銀の使命達成のために必要である以上、日銀総裁も積極的に政府に対して国債の信認維持の必要性と、そのために政府が何をすべきかを説くことも重要であろう。


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by nihonkokusai | 2012-04-24 08:18 | 日銀 | Comments(4)
Commented by keiko at 2012-04-24 08:45 x
電子版「現代ビジネス」4月23日の記事で高橋洋一氏は以下の様に述べてます。

「急な金利上昇によって金融機関が危なくなるという人もいるが、もしそうなってもたいしたことはない。リスクヘッジという保険がかけられている。」

先物やオプションでリスクヘッジは可能でしょうが、CDSではデフォールト以外の損失をカバーすることは出来ないはずです。それとも高橋氏の言う様な保険が存在するのでしょうか?
Commented by keiko at 2012-04-24 09:09 x
米国のQE1,QE2の後に10年債金利は急上昇しています。「闇株新聞」は景気回復期待が高まったからだと書いています。日本の場合は日銀が買いオペしても金利の上昇はありません。4月27日もし日銀が量的緩和で長期債の買い入れを行った場合、米国と同様、金利の上昇は有り得るのでしょうか?そもそも米国のQE後の長期金利の上昇は景気回復期待によるものでしょうか?
Commented by nihonkokusai at 2012-04-25 08:02
本当にどこにそんな保険が存在するのでしょうね。先物でフルヘッジなどかけることは、現実的に無理です。
Commented by nihonkokusai at 2012-04-25 08:09
中央銀行の国債買入は、そもそも国債の利回り以下を促すものなので、本来は金利は低下するものです。ただし、それを事前に相場が織り込んで先に買われてしまえば、米国のように材料出尽くしで売られることがあります。景気回復というには、後付け解釈のように思われます。このあたりは相場動向次第の面がありますので、27日の結果次第で、短期的にはどちらに転んでもおかしくないです。国債買入したから金利が上がるのではなく、事前に相場はどのような予想をし、その結果がどう出るかにより、その反応は異なります。
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