7人の侍によるデフレ退治
今回の会合での追加緩和期待はそれほど強くはなかったはずであるが、2月14日のサプライズともなったバレンタイン緩和の記憶も残っており、一部には追加緩和の可能性を意識していた向きもいたのかもしれない。また、3月13日の決定会合において、資産買入等の基金を5兆円程度増額し70兆円程度とする議案を提出していた宮尾審議委員が、今回は追加緩和の議案提出をしなかったことも嫌気されたとの指摘もあった。
日銀の金融政策を決める政策委員は現在、定員9名のうち7名しかいない。2月のバレンタイン緩和により、日銀はデフレ退治に向けて能動的な姿勢を取った。現在はこの7人でデフレ脱却に向けた金融政策の舵取りをしなければならない。しかし、その相手となる市場にあまり期待感を抱かせると今回のような結果ともなりかねない。このあたりの舵取りは非常に難しい。
もちろん市場や政治家の顔色を伺いながら金融政策を行うというのもおかしいが、あまりそれぞれの意向に逆らっても、手ひどい反発を受けかねない。むしろ市場などを味方に引き入れることも重要で、その意味では2月の緩和策は成功したかに見えたが、その成功体験がむしろその後の金融政策をやりにくくすることにもなった。
政府もデフレ脱却にむけて、関係閣僚会議を戦略会議の下に新設することを明らかにしたが、ここに日銀総裁は参加するようである。この会議が果たしてどれだけ機能するのかは未知数ではあるが、前線にいる日銀総裁に対しての暗黙のプレッシャーも掛かるものと思われる。また、今回ブラックアウト期間中にも関わらず野田総理と白川総裁は6日に会談を行うなど、政府は消費増税に向けての側面支援を日銀に期待している可能性もある。
10日の日銀総裁の会見内容からみて、次回の27日の決定会合で追加緩和が検討される可能性は高い。今回の決定会合後に発表された公表分の内容をみると、前回3月の「わが国の経済は、持ち直しに向けた動きもみられているが、なお横ばい圏内にある」から、今回は「わが国の経済は、なお横ばい圏内にあるが、持ち直しに向かう動きがみられている」と上方修正されてはいるが、ここにきて再び円高株安の流れともなっており、欧米経済についても先行き不透明感が強まっている。このため、27日には5兆円か10兆円の資産買入等の基金の増額が決定される可能性がある。その際には国債買入の期間の延長なども議論されるとみられる。
ただし、この追加緩和が行われたとしても、それが実態経済に与える影響はそれほど大きくはない。このため、重視されるのはアナウンスメント効果であろう。日銀の7人の侍によるデフレ退治は、金融政策が実態経済に影響を与える経路を考えれば、それなりの創意工夫が求められる。黒澤明監督の「七人の侍」では、野武士からの襲撃から村人を守るため、いろいろな作戦が立てられた。アナウンスメント効果を強めるための工夫もまた必要であるのかもしれない。また、野武士からの襲撃には村人の協力も必要であった。日銀によるデフレ脱却に向けた姿勢については、国民の理解を得ることも重要ということであろう。
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