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任期満了となったトリシェECB総裁

 1998年6月1日、欧州共同体設立条約(マーストリヒト条約)及び欧州中央銀行制度(ESCB、後述)および欧州中央銀行(ECB)に関する定款に基づき、欧州中央銀行(ECB)と欧州中央銀行制度(ESDB)が設立された。本部(本店)はフランクフルトに置かれた。

ESDBはECBと、統一通貨ユーロの導入の有無に関わらず欧州連合(EU)に加盟している27か国の中央銀行で構成されている。この中で、ECBとユーロを通貨として採用している加盟国17か国の中央銀行によってユーロシステムが構成されている。

 米国は連邦制度となっていたことから連邦準備制度という形式での中央銀行を作ったが、ユーロ圏の経済統合の結果、ユーロシステムを構成しているそれぞれの国の中央銀行は、その役割を欧州中央銀行というひとつの銀行に委ねた。そして1999年1月に欧州の通貨統合により単一通貨であるユーロが導入され、ユーロ圏の金融政策は、ECBが行うこととなったのである。

 そのECBの初代総裁となったのが、オランダ銀行総裁やオランダ大蔵大臣を歴任したウィム・ドイセンベルク氏であった。本来であれば総裁の任期は8年であったが、総裁選出や本部所在地との兼ね合い等々があり、ドイセンベルク氏の任期半ばでの退任と、その後継にはフランス銀行総裁のトリシェ氏を任命することが、公然の密約として取り交わされていた。つまり、ドイツとフランスの対立などが反映され政治色が非常に強いものとなっていたのである。

 この密約通りに、ドイセンベルク氏が任期半ばで退任し、2003年11月にジャン・クロード・トリシェ氏が第2代総裁に就任した。元々、ECBはブンデスバンクがモデルとなっているが、トリシェ氏も真のインフレファイターとも言える人物であった。

 トリシェ総裁の任期の半ばあたりまでは、それほど大きな出来事はなかったものの、2007年のパリバ・ショックにより、ECBなど各国中銀は大量に資金供給を実施。2007年12月にはFRBがECB、スイス国民銀行(SNB)とスワップ取極を結んで欧州でのドル資金供給を始めた。

 しかし、事態は改善せず2008年9月には今度はリーマン・ショックが発生し、欧州各国も預金の全額保護や金融機関の国有化・資本注入、短期債務保証など、様々な施策を迅速に打ち出し、国際協調も行われECBなど各国中銀が一斉に利下げを行った。

 そして、今度は2010年1月にギリシャの財政状況の悪化が表面化したことで、ギリシャ・ショックが発生し、問題が金融機関から国の債務問題に向かい、5月にはECBは欧州危機対応のための国債買入を決定したのである。これは政治からの独立性を意識していたトリシェ総裁にとりかなり苦渋の決断であったとみられる。

 ECBのトリシェ総裁の後任には当初、ドイツ出身者が就任するであろうことが暗黙の了解のようになっており、ドイツ連邦銀行のウェーバー前総裁が最有力視されていた。しかし、そのウェーバー前総裁が、「個人的な理由」で2011年4月末にドイツ連邦銀行総裁を辞任した。 ウェーバー前総裁は、ECB理事会において、インフレを加速し中央銀行の政治的独立性を損なうとして加盟国の国債買い入れに強硬に反対しており、それがドイツ連銀総裁の辞任、つまりは次期ECB総裁候補から降りた要因となったとみられている。

 さらに9月にはユルゲン・シュタルク専任理事がやはり「個人的な事情」を理由に辞意を表明した。この理由もイタリアなどの国債買い入れをECBが行ったことが要因とされる。トリシェ総裁にとり、親しい友人であったとされるシュタルク専務理事の辞意表明はかなりショッキングな出来事であったとみられる。

 トリシェ総裁はインフレファイターを封印して欧州の債務危機に対して果断に挑んでいった。このためにドイツ出身者との軋轢を生んだとも言える。しかし、欧州の債務問題は解決したわけではないものの、メルケル首相の働きなどとともに、結果とすればトリシェECB総裁の働きもかなり賞賛されるべきものであったと言えるのではなかろうか。だからこそ、その慰労パーティーで臨時会合が開催できるだけの人物が集まったとも言えよう。そして、10月31日でECB総裁は任期満了となった。

 ECBのトリシェ総裁の後任には、債務問題が押し寄せつつあるイタリア出身のマリオ・ドラギ氏が11月1日に第3代欧州中央銀行総裁に就任する。前任者の功績が大きかったこともあるが、今度は出身国の火の粉を消す必要もあるなど、新総裁も大きな問題を抱えている。ドイツやフランスという大国の板挟みとなる中での、ドラギ新総裁がどの程度の手腕を発揮できるか、今後の情勢を見極めていきたいと思う。


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by nihonkokusai | 2011-11-01 08:30 | 日銀 | Comments(0)
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