過去の日本の債券相場の暴落事例 その2
1998年7月に成立した小渕恵三政権では、次々に経済刺激策が打ち出され、国債が大量に増発された。同年11月16日に発表された20兆円規模の緊急経済対策(6兆円の恒久的減税を含む)では、財源に12兆円を上回る国債が手当てされることとなった。
翌17日に米国の格付会社ムーディーズは、日本国債の格付を最高位のAaaからAa1に引き下げると発表した。格下げの大きな理由が公的部門の債務膨張であった。
国債増発と海外格付会社による格下げで、債券市場の参加者は国債への信頼性に懸念を抱き始めた。こうしたなか、11月20日付け日経新聞に「大蔵省は1998年度の第3次補正予算で、新規発行する国債12兆5千億円のうち、10兆円以上を市中消化する方針」といった小さな記事が出た。これは国債を大量に引き受けていた大蔵省資金運用部の引き受け比率が、今後大きく低下することを示唆していた。
翌年度の当初予算は減税によって税収が47兆円に減少するうえに、国債発行額が前年約2倍の31兆円あまりに達していた。翌年1月から長期国債が、月々1兆8000億円と、一気に4000億円も増額されるという見通しも出された。1999年度の国債発行額は70兆円以上、うち市中消化は60兆円以上との新聞報道もあり、大蔵省資金運用部の国債引き受けが減るのは第三次補正予算だけでなく、来年度も急減することが明らかになった。
さらに速水優日銀総裁(当時)が、日銀による大量の国債保有に対して「自然な姿ではない」とのコメントを出した。日銀も自ら大量に保有する国債について危惧を表明したのである。
このように需給を主体とする悪材料が重なったところで、大蔵省資金運用部が国債買い切りオペを中止すると発表したのである。これを契機に12月22日に債券先物がストップ安をつけるなど、債券相場は急落した。いわゆる運用部ショックである。9月に0.7%を割り込んでいた長期金利は12月30日には2%台に乗せてきたのである。
・VARショック
2003年5月のりそな銀行に対する資本注入によって、大手銀行は潰さないといった意識が強まり、その結果、株式市場では銀行株などが買われ、海外投資家の買いなどにより、日経平均株価は2003年4月の7607.88円がバブル崩壊後の安値となり底打ちした。米国や中国などの経済成長などを背景に、日本の景気も徐々に回復し始め、その後上昇基調を強めたのである。
6月までは債券相場は1日あたりの値幅も限られながらも、じりじりと高値を更新し続け11日に30年債が0.960%、20年債0.745%、そして10年債0.430%とそれぞれ過去最低利回りを記録した。
この相場上昇過程において、目立ったのが都市銀行の一角や地銀を含めた銀行主体の債券買いであった。銀行などがポジションのリスク管理に使っているバリュー・アット・リスク(VAR)の仕組み上、変動値幅が少ないことでそのリスク許容度がかなり広がりをみせていた。株価の低迷にともなって債券での収益拡大の狙いもあり、必要以上にポジションを積み上げ、異常なほどの超低金利を演出した。
しかし、これもいわゆる債券バブルに近いものとなり、6月17日日経平均株価が9000円台を回復し、この日実施された20年国債の利率が1%割れのクーポンとなり、大手投資家などが超長期国債の購入を手控えたことをきっかけにして、債券相場が急落したのである。
この債券相場の急落の背景としては、株価の上昇とそれを裏付けるような好調な経済指標が出てきたことで、景況感の変化によるものも当然大きかった。しかし、下げを加速させたのもVARであった。債券急落に伴い変動幅が今度は異常に大きくなり、銀行のリスク許容度が急速に低下。必要以上に売りを出さざるを得なくなったことで、下げが加速されたのである。
・小沢ショック
そして最後に取り上げるのは、価格変動そのものは「運用部ショック」や「VARショック」よりは小さかったものの、国債増発への懸念や国債への信任に対する不安がきっかけとなった国債価格の下落である。これは市場では「小沢ショック」と呼ばれたものである。
2010年9月の民主党代表選挙で小沢前幹事長が立候補した。もし小沢氏が勝利すれば、ばら撒き政策による国債増発等があるのではないかと危惧され、その結果、債券先物が売られたのである。しかし、代表選挙の結果は菅総理(当時)が勝利し、債券先物はその後、反発した。
今後、日本国債が債務悪化を理由に下落するとなれば、その兆候は債券先物価格の動きに当然現れるであろう。このため、国債急落のシグナルは債券先物の価格変動から確認することが可能であると言える。
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