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IMFによる日本への警告

 IMFが9月20日に発表した「財政モニター(要旨)」をもとに、日本に関する指摘を確認してみたい。

 「ユーロ圏では、多数の国が、多額の赤字の削減と中期的計画の明確化において順調に前進し、財政機関の強化にコミットしている。それにもかかわらず、イタリアやスペインなど比較的大規模な国で、国債のスプレッドが大幅に上昇した。これは、市場心理が急変する可能性を示している。日本と米国は、財政調整計画の提示および実施においてさほど前進していないが、金利は歴史的な低水準にとどまっている。」

 「日本と米国は、金融市場の圧力がユーロ圏に拡大した速さやその影響力を戒めとすべきである。日本と米国の低金利は、国内および機関投資家の大規模な基盤など、急激には変化する可能性が低い構造的要因が一因である。さらに、赤字、債務比率、予測される年齢に関連した支出の伸び(米国)といった標準的な財政指標の多くが、大きな市場圧力下にある多くの欧州諸国と同水準となってはいるものの、両国政府が投資家から得た多大な信用を反映している。しかし、両国の信頼性は、十分に詳細かつ意欲的な、赤字および債務の削減計画が導入されなければ、突如弱まる可能性がある。」

 どうやらIMFは日本と米国について、非常に似たような状況にあるとみなしているようである。ここでは財政調整計画と約されているが、財政健全化策や財政再建が日本では一向に進められていないことは明らかである。もちろん、今回の東日本大震災の影響もあるが、それ以前に日本が財政健全化を進めようとするたびに、バブル崩壊とその後の不良債権問題、リーマン・ショック等々によりそれが頓挫してしまい、健全化の先送りが続いている状況にあることは確かであろう。

 「日本と米国は、金融市場の圧力がユーロ圏に拡大した速さやその影響力を戒めとすべきである」とのIMFの警告は、真摯に受け止める必要がある。日本では国内資金で政府債務のほとんどが賄われており、巨額の国内資金を運用する国内機関投資家の存在が日本国債の大きな受け皿となっている。この構図が急激に変化する可能性は当然ながら低い。

 さらに日本と米国の国債については、両国政府に対する投資家からの多大な信用(credibility)が反映されていることも、日米の長期金利が歴史的な低水準にとどまっている大きな要因となっている。

 しかし、IMFが警告しているように、両国の信頼性は、意欲的な財政再建をすすめることがなければ、突如弱まる可能性がある。信用や信頼性は築き上げるにはかなりの時間を要するが、それが崩れ去るのは、ギリシャの事例を見てもあきらかなように、瞬時である。

 「日本については、災害救援および復興が当面の主要優先課題だが、国が直面する課題を反映した目標を伴った、より詳細な中期的計画も必要である。当局は、10年後を目処に債務比率の引き下げを行うとした、重要な措置の実施を掲げている。しかし、税制改革をさらに進めるなど調整を早め、10年後ではなくその半ばを目処に、債務比率の引き下げを開始することが適切である。」

 日本政府は2015年度までに基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の赤字幅を半減し、20年度までに黒字化するとの目標を掲げているが、たとえ消費税が10%に引き上げられたとしても、この目標を達成することはすでに困難な状況にある。

 現在、日本の長期金利の水準や国債の消化状況を見る限りにおいて、日本国債に対する信用は揺ぎ無いものとなっている。しかし、何かしらのきっかけでその信用が崩れ去る可能性が存在する。日本に対する信用を今後も強固なものにさせ続けるためには、何をすべきであるのかを、特に日本の政治を担う者は常に認識しておく必要があろう。


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by nihonkokusai | 2011-09-30 19:37 | 国債
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