身動きの取りづらい日銀とFRB
日銀は2010年10月5日に包括的な金融緩和策を実施することを決定したが、その中で「中期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとし、時間軸を明確化した。中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率の中心は1%程度となっているため、ゼロ金利解除のハードルは前回の量的緩和解除の際よりもさらに高く引き上げられている。
今回の基準年の変更による下方修正も加わり、今回はかろうじて前年比プラスとはなったものの、1%に届くにはかなりの長期間も必要になるとみられ、その間、日銀の実質的なゼロ金利政策が続けられる見込みとなっている。
そして米国では、FRBが8月9日のFOMCにおいて、現在の経済情勢が続く限りは少なくとも2013年半ばまで、政策金利であるFF金利を異例な低水準を継続する可能性があることを示した。
これについては、CPIなどの経済指標で金融政策運営の縛りをつけていわけではなく、あくまで経済の予測を示し、異例な低水準が長期間にわたり継続されることをFRBが予測したものであるため、日銀の時間軸政策とは異なるものではある。しかし、結果として市場参加者が長期にわたる超低金利政策の継続の予想を促し、より長い金利の低下に働きかけていることは確かと思われる。
日銀は包括緩和政策を決定したあと、2011年3月に震災の影響を鑑みて追加緩和を決定し、資産買い入れ基金を総額5兆円から10兆円に拡充した。さらに8月には、円高対策の一環として資産の買入れを10兆円から15兆円に、固定金利オペを5兆円から10兆円に拡大した。
すでに実質的なゼロ金利政策を行なっている日銀にとり、追加緩和については基金の拡大などで対処せざるを得ない。現在の金融政策については、アナウンスメント効果が意識されているため、その意味では多少の効果はあるかもしれないが、実質的な効果は限られる。もしも、積極的にデフレ解消を金融政策で行なうとなれば、円や日本国債の信任を毀損するような手段をとらざるを得ないのが現状であろう。
そして、FRBも積極的に動きづらくなっている。FRBのバーナンキ議長は26日、ワイオミング州ジャクソンホールで行われた講演で、追加緩和については9月のFOMCで検討することを明らかにし、日程も当初の1日から2日間に延長することも示唆した。
昨年8月のジャクソンホールの講演でバーナンキ議長はQE2実施の意向を明らかにしていたことで、今年の同講演でのQE3への期待感もあったが、米国では物価が上昇するなど一時懸念されていたデフレ懸念は後退しており、FRB内部でもQE2の効果そのものに対し批判的な見方もあるなど、FRBが新たに国債を買い入れるといった政策はかなり困難であるのが実情である。ただし、市場ではFRBによる追加緩和への期待感も強いことも配慮し、バーナンキ議長は追加緩和を検討する可能性を残した。
金融政策は決して特効薬にはならず、あくまで景気や物価に対して過熱感を抑えたり、冷え込みを防止するためのものである。本来ならば景気対策には財政政策が有効となるが、日米共に財政が積極的に動ける状況になく、どうしても金融政策に比重が掛かってしまう。しかし、その金融政策にも手詰まり感が出ている。
それならば、世界的に信用不安が渦巻き、景気への影響が懸念されている中、何を行なうべきなのか。日米の中央銀行にとり、当面は粘り強く現在の超低金利政策を押しすすめることしかないのではなかろうか。さらに政府は民間企業の活力をそがずに後押しするような政策を行い、また国民による漠然とした将来への不安心理を沈めることも重要となろう。そのために特に日本では信用に値する政権作りも求められよう。
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