高橋是清の言葉の意味
この中で、高橋是清蔵相の発言がいくつか引用されている。これは現在にもかなり通じるものがあり、日銀による国債引き受けを行なった高橋蔵相が、国債に対するリスクをしっかり把握していたことが伺える。
「多額の公債が発行されたにもかかわらず、いまだ弊害が表れずかえって金利の低下や景気回復に資せるところが少ないので、世間の一部にはどしどし公債を発行すべしと論じるもがあるが、これは欧州大戦後の各国の高価なる経験を無視するものである」(高橋是清)
これは小黒准教授も指摘していたが、現在の日本財政を巡る議論とまさにそっくりである。これだけ大量に国債が発行されても消化には問題ないどころか、長期金利は歴史的にも超低位のまま推移している状況にある。そして国債引き受け等により見事、昭和恐慌によるデフレを克服したと高橋是清を引き合いに出し、国債を大量に発行しそれを日銀に引受けさせて、現在のデフレをまず克服すべきとの声は、現在でも国会議員からも出ている。
しかし、その高橋是清は国債の大量発行による弊害も意識していた。特に第一次世界大戦後のドイツの状況を調べていたものと推測される。「どしどし公債を発行すべし」と論じる者は、約70年前の高橋蔵相の発言の意味をよく考える必要があろう。
「公債が一般金融機関等に消化されず日本銀行背負い込みとなるようなことがあれば、明らかに公債政策の行き詰まりであって悪性インフレーションの弊害が表れ、国民の生産力も消費力も共に減退し生活不安の状態を現出するであろう」(高橋是清)
高橋是清による日銀による国債引き受けは、国債市場が整備されていない当時、いったん日銀が引受けるが、それを銀行に売却するという手段を講じ、国債消化をスムーズにさせることで財政政策を行いやすくしたわけではある。しかし、日銀による国債引き受けというパンドラの箱を開けてしまったことは確かである。
高橋蔵相はそれでもデフレが解消し景気回復が達成できれば、国債発行を抑制するなど自らコントロールすることが可能と認識していたのかもしれない。しかし、いったん開いたパンドラの箱は閉じることはできなくなることを、自らが暗殺されてしまったことにより、歴史に示したといえる。
二二六事件による高橋蔵相暗殺後、国債発行と日銀引き受けのコントロールが効かなくなり、本格的な国債の日本銀行背負い込みが始まる。それは結果的に高橋蔵相が危惧していた悪性インフレーションを招くことになり、太平洋戦争による直接的な被害以上の損害を日本経済に与えることになる。
これだけ事情を把握していた高橋是清にすら、国債発行と日銀引き受けのコントロールが最終的にはできなかったものを、現在の政治家がうまくできるとは思えない。ましてやその物価上昇に対して、日銀がインフレターゲットを採用すれば押さえ込めるとの発想は、まったく現実的ではない。
高橋是清の危惧はまさに現在に通じるものであり、その言葉の意味をよく理解することが、特に国を治めるものには必要なのではないかと思われる。
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