日本の債務危機を招かないための財政健全化のすすめ
昨年6月に閣議決定された「財政運営戦略」において、国及び国・地方の基礎的財政収支赤字の対GDP比を、2015年度までに2010年度の水準から半減し、2020年度までに黒字化させた上で、2021年度以降において、国・地方の公債等残高の対GDP比を安定的に低下させることとされている。
2015年度までに消費税率を現行の5%から10%に段階的に引き上げた場合に、国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2010年度比で半減させる財政健全化目標を達成するとしている。しかし、2020年度までの黒字化目標の達成には、6%超の消費税率に相当する18兆円程度の赤字が残り、さらなる収支改善が必要としている。
政府の試算によると、財政健全化について「2020年度までの平均で名目1%台後半、実質1%強の成長」という「慎重シナリオ」を前提とした場合、東日本大震災の復旧・復興対策の経費や財源などを除いたベースで、2015年度の国と地方のプライマリーバランスは15.4兆円、対名目GDP比で3%の赤字になるとしている。2010年度のプライマリーバランスは28.6兆円、対名目GDP比で6%の赤字となっていたため、対GDP比での赤字を半減させるとの財政運営戦略で定めた財政健全化目標が達成できることになる。
ただし、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させる目標について試算では、2020年度のをプライマリーバランス17.6兆円の赤字を見込んでいるため、2015年度までに消費税率を10%に引き上げても届かない。内閣府によると黒字化目標の達成には、さらに6%を超える消費税率の引き上げが必要になる計算となるようである。
また、試算によると、2010年度に827.3兆円だった公債残高(国と地方の公債等残高の数値とみられ、財投債や政府短期証券は含まれていない)は、慎重シナリオで2016年度に1000兆円を突破し、2018年度に対名目GDP比で200%を超えるとしている。
このようにもし仮に消費税が、2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げたとしても2020年度までにプライマリーバランスを黒字化できない状況にある中、民主党内でも消費税増税に反対する議員も多く、実際に10%の引き上げすらできない可能性がある。
今度の民主党代表選でもこの増税の是非が争点になるとの見方も強まっている。仮に反増税を主張する候補が次期民主党代表、つまり首相となれば、さらにプライマリーバランスの黒字化は遠のくことになりかねない。
国債を売買する債券市場の参加者は、政府による財政規律の姿勢が維持されることで安心して国債を購入できる。このためにも、2020年度までにプライマリーバランスを黒字化させるという財政健全化の動きは進めなければならない。しかし、消費税増税もできず、プライマリーバランスを黒字化が先送りされればされるほど、日本の債務危機は向かってくる。
日本国債の危機、つまり日本の債務危機そのものは、これまでの経緯を見てもわかるように格付会社の格下げや、参加者が限定され市場規模が小さなCDSなどでは示されない。日本国債の価格変動、それは利回りの推移ともなるが、そのもので示されるものである。
これまでは決して、日本の債務危機が国債価格(利回り)に直接影響するようなことはなかった。だから今後もないとは言い切れない。戦後、日本の国債が発行されてから、まだ50年も経過していない。しかも、国債の流動化が本格的に進んでからはまだ30年足らずしか経っていない。歴史も浅い中にあり、過去になかったから今後もないと言い切るにはあまりにリスクが大きい。これまでなかったからこそ、起きたときの衝撃は計り知れないものとなると可能性も十分にありうる。このあたりのことも次期首相には十分意識していただきたい。
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