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米格下げによる米債への影響は限定的。イタリアの動向にも注意が必要に

 米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、6日、米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。ムーディーズやフィッチは米国格付けは最上位に据え置くと発表していたことで、今回はS&Pだけが格下げに動いた格好だが、これは市場ではある程度その可能性は織り込んでいた。

 参考までに、S&Pは米国の長期の信用格付けを引き下げたわけだが、この長期信用格付けは政府そのものとともに政府債務への信用度ともなるため、米国債の格下げとしても問題はない。たとえば日本での格下げの際には、日本の格下げという捉え方はあまりされておらず、日本国債の格下げとして大きく取り上げられていた。

 1998年11月にムーディーズが日本国債を格下げした際に、市場への影響が限定的であったように、この米国格下げによる影響は限定的だと思われる。日本の場合にはそのほとんどを国内資産で賄われているために、売り手が限られるとの見方があった。そもそも日本国債の買い手にとり、その代わりとなるような巨額な残高を持つ安全資産がほかに見当たらないということも大きかった。

 それと同様に米国債についても、民間格付会社が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらい。金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。 また、日本国債同様に、いまのところはソルベンシー(支払い余力)に問題があるわけでもない。

 ただし、米国債の格下げをきっかけに世界の金融市場全体に一時的な動揺が走る懸念があるため、8日のアジア市場が開く前に、先進7か国の財務相と中央銀行総裁が緊急の電話会議を行ない、為替の過度な変動や無秩序な動きは金融安定に悪影響との認識が示された。この声明そのものの影響はさておき、G7の積極的な動きは市場安定に作用するのではないかと思われたが、実際には8日の米国市場でダウ平均が634ドルとスカイツリーの高さほどの下落を見せるなど急落したことで、あまり効果はなかったとも言える。

 そして、辞任の意向を示していたガイトナー米財務長官が、大統領の要請を受けて続投を決めたとも伝えられている。ガイトナー氏の辞任の意向は強かったのではないかと思われるものの、もしこのタイミングで辞任するとなると、市場に大きな影響を与えかねず、そのあたりも配慮しての続投かとみられる。これに対して、日本の野田財務相は民主党代表選に出馬するため、特例公債法案の成立直後に辞任する意向を固めたと伝えられ。野田さん辞任の意向による影響も注視しておく必要がある。

 今回の騒動の発端のひとつS&Pは、米国の格付けが今後6か月から2年の間にさらに引き下げられる可能性は3分の1と、ABCの番組で述べたそうだが、みな火消しに走っている最中、また油を注いだ格好である。

 民間の格付会社の格付けが世界の金融市場に多大な影響を与えるという構図については、やはり大きな問題を含む。政府への警告という観点からは格下げも意味があるとの見方もあるが、市場に対して必要以上に動揺させるようなことは、なるべく抑えることも必要であろう。今回の格下げにより格付会社と欧米の政府との間での対立の様相を強める可能性もある。実際に、米上院銀行委員会が今回の米国債の格付けを引き下げたことについて、調査を開始したとも伝えられている。

 また、8日にはG7の動きに先立ち、すでに欧州でも動きがあり、ECBも臨時会議を開いて、ここにきて売られているイタリア国債なども買い入れの対象とすることなどについて検討と伝えらた。欧州の債務問題はギリシャ、ポルトガルなどから、スペインそしてイタリアへと広がっている。イタリアはユーロ圏での経済規模は3番目に大きく、仮にイタリアへの信用問題が深刻化すると欧州の債務問題は深刻の度を深める危険性がある。さらにベルギーやフランスにも及ぶ懸念すら出てきた。

 昨日、そのECBはイタリアとスペインの国債を購入を始め、これを受けて両国債の利回りは、1999年のユーロ導入以来で最大の下げを演じた。5日に6%台となっていたイタリアとスペインの10年債利回りは、ECBの買い入れにより5.3%台に低下した。

 米国債格下げ騒動に紛れてしまった感があるが、先週末の米国市場では予想より改善を示した米雇用統計よりも、イタリアのベルルスコーニ首相の発言が米株高・債券安の要因ともなっていた。ベルルスコーニ首相は、緊縮財政策を前倒しで実施し、計画より1年早い2013年の財政均衡を目指す方針を示唆していた。

 ギリシャなどに比べ、イタリアの財政については健全とまでは言いがたいが、支払い余力等に差し迫った問題があるとは思えない。しかし、市場が懸念し、それによりイタリア国債の利回りがさらに上昇し、7%を上回ってくるようなことがあると利払い費用が増加するだけでなく、イタリア国債を保有する金融機関にも大きな影響を与えかねない。このあたり、マーケットの沈静化をはかる必要もあったものと思われる。

 今回、米国債の格下げによっても米国債に影響が及ばないことがはっきりし、欧州の債務問題についても過剰な反応が後退すれば、今回の欧米主体のソブリン危機はいったん収束される可能性はある。

 ただし、このソブリン危機の背景には、リーマン・ショック後の欧米諸国の債務悪化とともに、米国の議会内での与野党の対立や、経済規模や債務の支払い能力が異なる国の集合体となっているユーロのシステムそのものへの問題もある。これらについてはすぐに解消できるような問題ではないことで、今後も債務問題がく燻り続ける可能性がある。

 そして同様に財政が悪化している日本に債務問題が飛び火してくる可能性も、現在の日本の政治情勢などを見る限りにおいて、ないとは言えない。


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by nihonkokusai | 2011-08-09 09:02 | 国債 | Comments(0)
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