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米国債の格下げの影響を考える

 米国の大手民間の格付会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、6日、自国である米国の長期格付けを最上位のAAAからAA+に1段階引き下げた。S&Pは1941年に米国の格付けを最上級格のAAAを付与していたが、米国債の格下げは初めてとなる。もうひとつの大手民間格付会社のムーディーズは、すでに米債務上限引き上げの合意を受け、米国債の格付けを最上位のAAAに据え置くと発表しており、またフィッチ・レーティングスも2日に米国格付けは最上位に据え置くと発表している。今回はS&Pだけが格下げに動いたが、これは市場ではある程度その可能性は織り込んでいた。

 1998年11月にムーディーズが日本国債を格下げした際に、市場への影響が限定的であったように、この米国格下げによる影響は限定的だと思われる。日本の場合にはその95%程度を国内資産で賄われているために、売り手が限られるとの見方があった。ただし、そもそも日本国債の買い手にとり、その代わりとなるような巨額な残高を持つ安全資産がほかに見当たらないということも大きかった。それと同様に米国債についても、ひとつの「民間会社」が格付けを1ノッチ引き下げたからといって、投資家が保有する大量の米国債をいきなり売却することは考えづらい。それというのも金融市場における信用度、そして流動性などを見ても、ほかに代替資産が見当たらないためである。

 米国債を大量に保有する国として中国、そして日本がある。日本については政府保有のものを含めて格下げがあったからといって、それを売却することは考えづらい。政治上の問題も当然出てこよう。中国についてはすでにドル資産一辺倒から他の資産に比重を移しつつあり、それを多少加速させる可能性はあるものの、やはりひとつの民間格付会社の格下げに、中国政府が大きく反応することは考えづらい。

 そして、もうひとつ今回の格下げには気になることも報じられている。S&Pが5日通告してきた米国債の格下げ方針に、米財務省が「待った」をかけていたそうなのである。格付け変更の際に格付会社は該当する国の関係省庁などに事前通告をしているようであるが、米財務省は今回、S&Pが提出した報告を精査し、その結果、財政赤字の算定で2兆ドルのミスを発見し、S&P側に指摘し格下げの再考を促したそうである。しかし、S&Pはそのまま格下げに踏み切った。

 また、米議会と連邦規制当局は、金融システムにおける格付会社の影響力を低下させ、S&Pやムーディーズ・インベスターズ・サービス、フィッチ・レーティングスが支配する同業界の競争促進を図る対策を盛り込んだ金融規制改革法(ドッド・フランク法)の実施方法を検討しているとブルームバーグが報じていたが、今回の格下げにより格付会社と政府・議会の間での対立の様相を強める可能性がある。

 7月8日には、欧州委員会のバローゾ委員長は格付会社を規制しようという機運が高まりつつあるとの認識を示し、格付会社の適切な規制となり得る点についてコンセンサスがまとまりつつあると述べ、寡占化よりも競争原理を持ち込むのは良いことだとのコメントがあった。

 ギリシャを発端とする債務問題について、格付会社による格下げが国債利回りの急上昇を招く要因となっていたことは確かである。今回の米国の格下げをきっかけに、欧米を中心として格付け会社に対する問題がクローズアップされる可能性がある。日本でも2002年4月に格付会社に対して意見書を提出している。ちなみに当時の財務相は塩川氏、そして国債課長は現在、NEWS ZEROのキャスター村尾氏であった。

 このように今回のS&Pによる米国債の格下げによる影響、特に米国債に対する影響は限定的と思われるが、格付会社そのものに対して政府側からの批判の声が強まる可能性がある。民間の格付会社の格付けが世界の金融市場に多大な影響を与えるという構図については、やはり大きな問題を含む。今後、日米欧の債務問題がさらにクローズアップされることも考えられ、政府への警告という観点からは格下げも意味があるとの見方もあるが、市場に対して必要以上に動揺させるようなことは、なるべく抑えることも必要であろう。市場に対する規制強化はあまり望ましくはないが、格付会社の在り方は特にソブリンの勝手格付けに関して再考する必要があるのではないかと思う。ただし、これは市場をあまり動揺させなければ良いことでもあり、マスコミなども必要以上に騒ぎ立てしなければ良い問題でもある。今回のS&Pによる米国債の格下げについては、NHKが夏の甲子園での開会式、選手宣誓のタイミングで臨時ニュースを流していた。

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by nihonkokusai | 2011-08-07 08:44 | 国債 | Comments(0)
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