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公共政策に関する白川日銀総裁のコメント

 日銀の白川総裁は京都大学で「公共政策を遂行するという仕事」という講演を行い、その内容が日銀のサイトにアップされている。

 この中で、白川総裁は過去四半世紀の間に日本の成長率が低下した要因として3つ指摘している。そのひとつが、バブル崩壊による直接的な影響である。

もうひとつが日本の企業の経営の仕方や日本の経済や社会の仕組みが過去四半世紀の間における世界経済の大きな変化に対し迅速に適合することができなかったことである。

 その変化のひとつに情報通信革命の進展を指摘し、象徴的な例として、iPhone を取り上げている。1台500ドルのiPhoneの販売価格の中の部品コストは173ドル、組み立てコスト6.5ドルに対し、粗利益は321ドルにも上っているとの調査研究を例に出し、iPhoneという製品のアイデアを考え出し、これを製品化することの付加価値がいかに大きいかということを示した。

 これはつまり、技術力だけでは、情報通信革命の波に乗ることはできず、そこに適切な付加価値を乗せることが経済成長を促す要因となると言うことであろうか。

 そして、日本の成長率の低下要因としては、急速な高齢化の進行という人口動態の変化もあげている。

 これらの要因への対応について総裁は、バブル期に新しい時代の到来を理解しない保守的な議論を日銀がしているとして金融引き締めに遅れたことや、バブル崩壊後しばらくの間、不良債権問題がマクロ経済に与える深刻な影響についての認識が薄く対応が遅れた点などを指摘している。

 第2の原因として取り上げた世界経済の変化への不適合については、日本の企業が過去の成功の記憶に囚われ、グローバル経済に生じた大きな変化への対応が遅れた点を指摘した。制度面の対応も遅れ、法律、規制、税制が現実の経済の変化に十分追い付いていない点を指摘している。

 この指摘は適切だと思うが、ただしそれでiPhoneのような戦略製品を生み出す環境が整うのかといえば、それだけでは無理なのではないかと個人的には思う。iPhoneには時代の流れを読むスティーブン・ジョブズという天才の存在が大きかったように思うのだが。

 そして、第3の原因である急速な高齢化や人口減少の問題については、これまで人口減少が経済に与える影響の深刻さが認識されなかったことや、必要な行動をとることが容易ではない点を指摘している。特に年金や社会保障の改革を進め財政を将来に亘って維持 可能なものにすることが不可欠なのだが、それは容易ではないとしている。

 正しい公共政策を適切なタイミングで実行することが難しい理由として、「現状を放置した場合に、将来どのような状態になるかを予測することは決して容易ではないこと」、「望ましい状態を実現するために必要な政策を設計すること自体が容易ではないこと」、「たとえ正しい政策が分かっている場合でも、それを実行することには多くの政治的ないし社会的困難を伴うこと」を指摘している。

 これについて白川総裁は具体的な言及は控えたが、これはそのまま財政再建にむけた政策運営にもあてはめられよう。日本の債務残高は増え続けているがこれが続くと将来、何が起きるのか、具体的なものをイメージすることは難しい。財政再建については必要な政策はある程度明らかではあるものの、それを実行するにはかなり政治的・社会的困難を伴うことは、それが一向に進んでいないことからも明白である。

 次に総裁は公共政策を適切に運営する上で重要と考えていることを、日本銀行の金融政策に即して説明しているが、ここではマクロとミクロの情報収集の重要性に加え、理論モデルを適切に活用することの重要性、そして歴史的洞察の重要性をあげている。

 特に最後の歴史的洞察の重要性について、バブル期には、いつも「今回は違う」(This time is different)という見方が登場し、「バブルの歴史から引き出せる教訓は、人間はバブルの経験からは学ばないものだ」という皮肉な感想があることを指摘している。

 それに対して十分ではないが、歴史の教訓から学ぶ賢明さも備えていることを、先進国はもとより新興国でも中央銀行による国債引受けは認められていないことを引き合いに出して指摘している。総裁は「政策の遂行に当たっては、人間の行動の織りなす社会の動きについても認識する必要がありますが、この点で歴史的事例は実に貴重な洞察を提供しています」としている。

 このあたり過去の歴史を見れば頷けるものがある。しかし、日銀による国債引受を主張する人たちが、「今のデフレ下にある日本は違う」というのは、過去の経験、歴史の教訓を無視した考え方であると思うのだが。

 そして、公共政策を適切に運営する上で重要なものとして実務執行の重要性を取り上げている。そして中央銀行は金融政策だけではなく、銀行業務を行っている組織であるという視点が希薄なことも指摘している。

 日銀の組織や人の配置などを確認すると、金融政策に関わっているのは実は一握りであることを実感する。総裁は「実務的な検証を伴わない壮大な政策論は、意味をなしません」としているが、たしかに銀行業務という実務の上でなければ、金融政策は成り立たないであろう。

 政策に携わる専門家は、常にこうした実務家の視点を兼ね備えていなければならないとの白川総裁の信念は、まさに的を射たものであろう。これは金融政策のみならずということは言うまでもない。


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by nihonkokusai | 2011-07-20 08:15 | 日銀 | Comments(0)
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