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ハイパーインフレの恐さ

「買おうと思っていた商品を、買おうと思っていた値段で、財布のなかにある紙幣で買えることが、どんなに幸せかわからないだろう。」

 2011年3月11日の日本を襲った大震災により、いろいろな物の見方が変わってきたと思う。それは「ありえない」と思っていたことが現実にはありうることを再認識させた。それは自然災害であり、原発による被害でもあった。

 それだけではない。人との結びつきが強く意識されたり、それを見直したりと人生観まで変わってしまった人も多かったようである。電気、ガス、そして水というインフラのありがたさを再確認した人も多いであろう。

 我が家も大きな被害はなかったものの茨城というとりあえず被災地であり、短期間ではあったが電気や水道のない生活を送らざるを得なかった。そのなかで感じたことのひとつが、最初の言葉にあったように、ガソリンや水を「買いたくても買えない」状況であった。これは一時的な物不足に過ぎなかったとは言え、その時に抱いた恐怖心のようなものは忘れられない。

 最初の言葉は、文面からもわかるように今回の震災を受けて書かれたものではない。この文章の前に次のような文書がある。

 「通貨価値の急落に愕然とした経験のない主婦には、通貨の安定がどんなにありがたいのかは、わからないだろう」

 これは第一次世界大戦後のドイツのハイパーインフレについて書かれた「ハイパーインフレの悪夢」(アダム・ファーガソン著)の一節である。

 ひとつ問題を出したい。インフレやデフレを人為的に創りだすことは可能であろうか。つまり意図的にインフレにしたり、デフレにしたりすることである。

 中央銀行の金融政策はまさにその物価を上げ下げすることが目的ではないかと言われるかもしれない。しかし、日銀の金融政策の目的は「物価の上げ下げ」にあるのではない。「物価の安定」が目的である。

 何が違うのか。そもそも中央銀行には物価を上げ下げする手段は持たない。あくまで物価の上昇を金融引き締めによりブレーキを掛けたり、デフレに対しては金融緩和によりその流れを少しでも食い止めようとするものである。中央銀行は直接、物価に働きかける手段は持っていない。

 いや、厳密に言えば手段はある。たとえばインフレにするには、日銀券や同様の信用力を持っている国債の信用を低下させれば良い。日銀に国債を引受させることで、日銀が財政をファイナンスする仕組みが出来上がる。とりあえず政治家はそれに限度額を講ずることで歯止めがかかるとするであろうが、目的が財政ファイナンスであれば、それは絵に描いた餅であり、歯止めはかけられず国債の信用力は低下しよう。

 発行される国債が日銀引受により安定消化されるようになると、いったん財政への懸念は後退するとともに、積極的な財政政策により景気が上向くことも予想される。物価も上昇し、税収も回復するであろう。そして、ある程度、物価の上昇が意識されたところで、ブレーキは掛けられるであろうか。

 景気が良ければ貸し出しも伸びてくることで、銀行が余剰資金を振り向けるようなことをしなくなる。物価上昇とともに長期金利は上昇することで、それにより海外からの日本国債への投資を招くかもしれない。しかし、中央銀行しか買い手がないような国債に手を出すような海外投資家はいないであろう。

 長期金利の上昇は国債の利払い負担を増加させ、ある程度税収が回復してもそれを相殺してしまう。さらに物価上昇は金利の急騰を招くことになり、それでなくても信用力を失った国債の利回りは大きく上昇することが予想される。市場金利である国債の利回りを抑えこむことは、現在のギリシャの金利を抑えこむのと同様に困難極まりなくなる。

 国債そして円に対しての信用力の低下は、物価の上昇を招くことになり、それがハイパーインフレに繋がる危険性が強まる。その結果生じるのが、第一次世界大戦後のドイツや第二次世界大戦後の日本で見られたハイパーインフレである。これまで日本国債を買い支えていたのが国内資金であるだけに、その価値の実質的な目減りは国民生活を直撃しよう。

 通貨価値が安定しないという状況は、今回の震災後にみられた物不足のパニックがまるで些細なことであったように感じさせることになろう。今度は物があってもそれが財布の中の円では買えなくなってしまう。

 そんなことが起きるはずがないと言うかもしれない。現在の政府や日銀がそんなことを許すわけがないと言うかもしれない。しかし、デフレを解消しさえすればすべてはうまく行くという主張が、国会議員からも出されているような状況にあることを良く考えてみる必要がある。ハイパーインフレは決して過去の遺物ではない。


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by nihonkokusai | 2011-07-14 11:03 | 国債 | Comments(0)
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