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日銀による国債引受けに関する白川日銀総裁発言

 日本銀行の白川方明総裁は5月28日開催された日本金融学会2011年度春季大会における、「通貨、国債、中央銀行 ―信認の相互依存性―」と題する講演の内容を再び見てみたい。

 白川総裁は中央銀行と国債の役割に関することに触れ、「日本銀行は金融調節に当たって国債を大いに活用していますが、中央銀行による国債買入れオペは、銀行券の供給や金融政策の運営のために行われているものであり、財政ファイナンスや国債金利の安定を目的として行われているものではありません。仮に中央銀行による国債買入れオペが財政ファイナンスや国債金利の安定を目的として行われていると受け止められるようになると、リスク・プレミアムが高まり、長期国債金利は上昇します。」

 このあたり、理解しづらい人もいるのかもしれない。リフレ派と呼ばれる人たちは理解しようともしていないように感じられる。日銀による国債の買入れも、国債の直接引受も結果から見れば、日銀の資産に国債が加わり、その分、市中にお金が出ていくことになんら変わりはない。だから、これはあくまで日銀は何のために国債を買い入れているのかが問題にされる。

 日銀による国債の買入れはあくまで金融調節のひとつの手段であり、日銀は銀行券の発行残高を上限として、保有長期国債が将来にわたってその範囲に収まるように、買入れを行っている。いわゆる日銀券ルールを設けている。これは日銀が設けた行内ルールであり、それに縛られずにもっと買入れを増やすべきとの意見も聞かれる。

 総裁は「多額の国債を買入れている中央銀行が、その買入れに当たっての基本原則も明らかにせずに行動すると、不確実性が増大し、リスク・プレミアムが発生する」ことを懸念している。現在の銀行券の発行残高は約 81兆円であり、現時点では長期国債の保有額60兆円は銀行券の発行残高を下回っているものの将来に向けては両者が接近してくるとみられており、国債の買入れそのものに慎重である。

 ただし、日銀は包括的な緩和政策にて、この日銀券ルールに縛られないかたちでの国債買入れも行うなど、見方によればリスク・プレミアムが発生してもおかしくはない手段も講じている。しかし、これについてもある程度の規律に基づくものであり、しかも財政ファイナンスではないとの認識から、リスク・プレミアムが発生するようなことはなかった。いずれにしても、あくまで市場が日銀の行動をどのように受け止めているのか。最も重要なのはその点である。

 そして、白川総裁は「日銀による国債引受け」の議論について、日銀の考えを説明している。

 欧州では、中央銀行の国債引受けが明示的に禁止されているほか、新興国 を含め世界の多くの国で、中央銀行による国債引受けは認められておらず、日本でも財政法5条により日本銀行による国債引受けを禁じている。ちなみに米国も同様に連邦法14条(a)にて連銀による国債引受を禁止している。

 これは「一旦中央銀行による国債引受けを始めると、初めは問題はなくても、やがて、通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを招き、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史の教訓」が元になっている。

 その教訓のひとつとして、高橋財政期の日本銀行による国債引受けについて触れているが、それに関して当時と現在の金融経済情勢はそもそも大きく異なっている事実について以下のような説明があった。

 国債引受けの始まる前は金融引き締め期であり当時のコールレ-トは6.6%と高い水準であったのに対し、現在は 0.07%と極めて低い水準になっている。長期金利も当時の5.9%に対し、現在は1.1%台。高橋財政が始まる直前の国債発行残高の対GNP比率は 47.6%と、現在の対GDP比率の181.9%とは比較にならないほどの健全財政の状態にあった。

 当時の国債引受けは資本移動規制の強化を伴い、これに対し現在は当時とは比較にならないほどに金融市場や経済のグローバル化が進んでおり、金融政策や財政政策が通貨の信認を壊すような方向で運営されると、長期金利にすぐ跳ね返る状況になっている。

 当時の国内金融市場は現在に比べて規模が小さく、国債市場が発達していなかった。当時の国債発行は、民間金融機関が引受けシンジケート団を組成して引き受けるか、郵便貯金等を原資とする預金部が引き受けるかたちが中心であった。

 そして、これはよく知られているように「当時、日本銀行は国債を引き受けても最初の数年間、すなわち高橋是清蔵相の存命中は速やかに売却をしており、日本銀行による国債の保有残高やマネタリーベースが大きく増加した訳ではない」。

 高橋蔵相は軍部の予算膨張に歯止めをかけようとして凶弾に倒れ、結局はインフレを招いた。ただし、偶々軍部の予算膨張を抑えられなかったのではなく、「市場によるチェックを受けない引受け」という行為自体が最終的な予算膨張という帰結をもたらした面もあったのではないかと白川総裁は指摘している。つまり、引受けという「入り口」が予算膨張の抑制失敗という「出口」をもたらしたと解釈すべきではないかという。

 高橋財政期の日銀による国債引受けはあくまでも「一時の便法」として始まっている。高橋蔵相は帝国議会での演説で、引受けによる国債の発行は一時的なものであることを述べているが、その後の歴史はこれが一時的なものではなかったことを示している、この点が非常に重要である。

 中央銀行による国債の引受けは、初めは問題がなくてもやがて通貨の増発に歯止めが効かなくなり、激しいインフレを起こすことによって国民生活や経済活動を破壊する。日銀による国債引受については麻薬に例えられることも多い。

 さらに財政バランスの改善は、インフレによって達成される課題ではないことも指摘している。完全にリフレ派を意識した総裁発言である。

 財政バランスの改善には、歳出、歳入の見直しと成長率の引上げも重要である。そこで言う成長率の引上げとは実質成長率の引上げである。

「この点に関しては、しばしば名目成長率の引上げが必要だと言われますが、この言い方はややミスリーディングです。この言い方ですと、実質成長率の引上げでも物価上昇率の引上げであっても、全く同じように財政バランスが改善するかのような印象を与えますが、単に物価が上昇するだけでは財政バランスは改善しません。何よりも必要なことは実質成長率の引上げに向けた地道な努力です。」

 まさしく正論であろう。日銀による国債引受では何ら問題は解決されない。それどころか、日本経済そのものを破壊する行為ともなりうる。さらに信用を失うことでインフレを招くことになれば、それに対するブレーキは効かない。インフレターゲットを設定してもインフレを止める手段、つまり信用を回復することができなければインフレは加速する。その結果、ハイパーインフレが生じて日本の債務問題が国民犠牲の上に解消する可能性はある。

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by nihonkokusai | 2011-06-05 10:00 | 国債 | Comments(0)
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