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日銀総裁の講演から見た通貨や国債への信認の重要性

 日本銀行の白川方明総裁は5月28日開催された日本金融学会2011年度春季大会において、「通貨、国債、中央銀行 ―信認の相互依存性―」と題する講演を行った。ここでは、政府と中央銀行の関係、あるいは金融政策と財政政策との関係が論点となった。

 この中でまず、日本の現在の中央銀行通貨残高が122兆円であり、さらに中央銀行通貨に容易に引き換え可能な銀行預金の残高は1024兆円あることを指摘し、一方、国債でについては発行残高は865兆円に上っているとしている。

 ちなみにこの865兆円とは、財務省が発表した2010年度末の「国債及び借入金残高」のうち、普通国債(636兆円)と財投債(118兆円)に政府短期証券(111兆円)を加えた数字を示しているのではないかと思われる。

 総裁は中央銀行通貨、銀行預金、国債の債務者に関して以下のような説明をしている。  「債務者は、中央銀行通貨は中央銀行、銀行預金は民間銀行、国債は政府です。いずれも素材として価値を有している訳ではないにもかかわらず、価値あるものとして認められ、その機能を発揮しうるのは、究極的には、通貨や国債の保有者がその発行主体を信認しているからです。」

 さらにそれぞれの主体に対する信認について、「自らの努力だけでなく、他の主体に対する信認が確保されていることや、社会の構成員が信認の重要性をお互いに理解することによっても支えられているということ」の重要性を指摘している。

 何故、このような「当たり前のこと」を「金融の専門家」の前、しかも「学会」の場で、「日銀総裁」が話をしなければいけなかったのか。そこに大きな問題がありそうな気がする。

 民間金融機関の預金、あるいはより一般的に金融機関債務、への信認は、政府の信認にも大きく依存する。その、政府の信認は最終的には国民の意思によって支えられている。このため、政府の信認が低下すれば、保有国債の価値の下落、担保価値の下落に伴う資金調達能力の低下をはじめ、様々なルートを通じて、民間金融機関の信認にも影響すると、総裁は指摘する。

 そして、非常時における政府の各種の積極的施策が成功するかどうかは、中長期的な財政バランスの維持に関して政府への信認が維持されているかどうにかかっており、そうした国民の意思と無関係に、政府が「打ち出の小槌」のように財政政策を無限に展開できる訳ではない、と指摘している。

 これは今回の大震災という非常時に行う政府の財政政策について、日銀による国債引受を主張した与野党議員、さらにそれを助長したと思われるマスコミなどに向けた発言であるように思われる。今回の講演において、この総裁発言に小首をかしげた参加者がいたとは考えづらい(もちろん全くいなかったわけではなさそうでだか)。

 さらに総裁は、「国債は円滑に消化され、長期国債の金利も低位で安定的に推移しているため、財政悪化に伴う危険に警鐘を鳴らす議論は、時として狼少年のような扱いを受けることもあります」と指摘している。

 ちなみに、この狼少年という言葉は、日本の債務危機を煽る人たちばかりでなく、それによる国債暴落を決め込んで債券先物などで空売りを仕掛けた海外のヘッジファンドなどに向けられて使われることが多い。

 「どの国も無限に財政赤字を続けることが出来る訳ではありません。政府の支払い能力に対する信認は非連続的に変化しうるものです。ギリシャに始まった欧州のソブリン・リスク問題はこのことを端的に示しています。」

 ギリシャは突然に債務が悪化したわけではない。政府が債務の悪化を隠したことが発覚したことで信用を失い、それによりギリシャ国債の金利が跳ね上がり、さらにギリシャの資金調達を困難にさせたことが問題を深刻化させている。

 そして日本の長期国債金利は何故、低位で安定しているのかについては、低成長と低インフレに求められ、過去10年間の経済成長率と物価上昇率の合計、すなわち名目成長率と10年国債金利を比較すると、若干の乖離はあるが、大きな流れとしては、同様の動きとなっていることを総裁は指摘している。

 ただし、低成長と低インフレを指摘するだけでは、答えは完結しないとして、長期金利は予想経済成長率と予想物価上昇率だけで決まるのではなく、それらにかかる不確実性を補償するリスク・プレミアムが上乗せされる点を指摘している。

 それではなぜ日本の国債はリスク・プレミアムが上乗せされていないのか。その理由の第一に「わが国の財政状況は深刻ですが、最終的に財政バランスの改善に向けて取り組む意思と能力を有している筈であるとみられていることです。」としている。

 「有している筈」、「みられている」とのやや曖昧な表現がやや気になるが、まあそうであろう。

「第2は、金融政策が物価安定のもとでの持続的な成長の実現という目的に合わせて運営されていることについて、信認が維持されている」

 こちらは「運営されている」、「維持されている」との表現であり、ある意味、自画自賛みたいな面もあるが、まあこれも確かであろう。

 その上で、「この2つの点について信認が揺らぐと、リスク・プレミアムは上昇し、その結果、国債金利が上昇することも意味している」としている。

 「通貨や国債に対する信認は、その重要性を意識した国民の意思によって担保されています。そうした国民の意思は、政策当局による十分な説明と、それに基づく状況の正しい理解があって初めて成り立ちうるものです。」

 これについては、その重要性は国民は理解していると思うが、果たして状況の正しい理解が本当にあるのかは、やや疑わしい面もある。書店に行ってみても、その正しい理解を妨げるような本が売れているのは何故なのか(拙著が何故、売れていないのかを主張したいわけではないので、念の為)。

 そして、総裁は次のような傾向に関しても述べている。

「日本の現実に即して言うと、長期国債金利は長期間低位で安定的に推移してきたので、今後もこうした状態が続くだろうと考える傾向です。もうひとつは、一旦、何らかのきっかけで変化が起き始めた時に、過去に生じた大きな出来事の連想から急激な変化が起きてしまうだろうと考える傾向です。」

 この傾向は国民向けというよりも、金融市場関係者向けであるように思われる。信認が維持されないとみるや、我先に国債を売却することになるのは市場参加者となる。

 「財政赤字の拡大や日本銀行の独立性が尊重されていないと感じられる出来事が起こると、最終的に激しいインフレが生じるだろうと考える傾向が生まれます。」

 これもまたリフレ派と呼ばれる人たちに向けたメッセージのようにも伺える。デフレ脱却を最優先として、日銀の独立性をむしろ弱めるようなことが起きれば、「予想は非連続的に変化する」ことから、通貨や国債への信認が失われるリスクは大きくなる。

 さらに総裁は、「高橋財政期の日銀による国債引受け」などについても言及しているが、長くなってしまうため、それについては後日見てみたい。


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by nihonkokusai | 2011-05-31 08:22 | 日銀 | Comments(0)
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