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日本が財政問題で学ぶべき、ポアンカレの奇跡

 「ポアンカレの奇跡」というのをご存知であろうか。ちなみに「ボンカレーの奇跡」ではない。私はボンカレーの登場はカップラーメン同様のインパクトがあったが、それはここでは関係ない。ポアンカレの奇跡である。

 「ポアンカレの奇跡」をグーグルで検索してもあまりヒットしない。経済史や財政問題などを専門とする方にとり、知っていて当たり前であったかもしれないが、私も詳しくは知らなかった。しかし、それを調べてみると今の日本が置かれた財政事情、そして今後どのようなことが起こりうるかを示してくれる。今、日本人が知っておくべきは「ポアンカレの奇跡」ではないかとも思う。

 前置きが長くなってしまったが、ポアンカレの奇跡のポアンカレとはフランスの政治家である。ここでは富田俊基氏の「国債の歴史」を参考に、第一次世界大戦当時のフランスの様子から探ってみたい。

 第一次世界大戦中のフランスはドイツよりも激しいインフレに見舞われたものの、フランス国債の利回りは比較的安定していた。ドイツからの賠償金により国債の償還資金が賄えるとの期待があったのかもしれないと富田氏は指摘している。また、その賠償金をあてにして放漫な財政運営が行われていたが、ドイツからの賠償金が滞るとの観測により、フランス通貨であるフランが売られ、国債価格も下落した。国債発行が困難になると、政府は中央銀行からの借入を増やしたことで、それがさらにインフレとフラン安を加速させたのである。

 1924年にポアンカレ首相は財政再建、金利の引き上げ、為替介入を行うが効果は一時的であった。左翼勢力が資本課税を導入しようとしたところ資本逃避が起き、さらにフランや国債が下落した。1924年6月の下院選挙で政権が後退しポアンカレ首相はいったん退くこととなるが、1925年6月に3%の国債は7%にまで上昇した。

 財政赤字を削減しても、過去に発行した国債の借り換えが必要となり、借換債の発行が困難となり、償還財源は中央銀行に依存せざるを得なくなった。これがさらにフラン安と金利上昇をもたらした。1926年には物価上昇率が年率で300%を突破して、当時のフランスはハイパー・インフレーションの瀬戸際まで追い込まれたのである。

 このフランや国債の危機の要因として、政府債務に対してのマネタイゼーションの圧力があった。さらに当時、ケインズはフランの下落に対し「赤字予算が崩壊の最初の原因であっても、本当の転落がやってくるのは、一般国民の信認がなくなった時である」と指摘している。国民の信認低下も大きな要因であった。

 しかし、フラン危機が最も深刻となった際に再度登場したのがポアンカレである。ポアンカレは蔵相も兼務し、組閣に際して自ら含めて6名の首相経験者を入閣させるなど、資本課税の導入に反対したすべての政党による挙国一致内閣を成立させた。これを受けてフラン安は急速に沈静化した。国民の信認が戻ってきたのである。

 ポアンカレは国債のマネタイゼーションを行わないという姿勢を明確に打ち出し、フランや国債の信認を取り戻した。資本課税を否定し抜本的な税制改革を行ない、高所得者の所得税率の引下げ、相続税の軽減とともに間接税の引き上げを行った。またフランス中央銀行は公定歩合を引き上げるなどフラン安定化策が実施された。大量に発行されていたディフェンス・ビルと呼ばれた政府短期証券の整理も進めた。さらに政府債務の利払いや償還、借り換えを行うため独立した機関も設置したのである。

 これら一連の施策により、フランス国債の信認が回復し、通貨であるフランも上昇した。これが、ポアンカレの奇跡と呼ばれたものである。

 これから教訓として学べるのは、国債の急落を回避するには国民の信認を維持させることが重要であること。さらに国債のマネタイゼーションは結果として国債や通貨の価格をさらに下落させる要因となること。これは中央銀行による国債引き受けを禁じた大きな理由である。そして、最終的に国債や通貨の信認を取り戻すには、強い指導力を持った政権による抜本的な改革が必要であることなどである。

 現在の日本の財政事情や政府の動向を見る限り、いずれ国債の新規発行が難しくなり、その結果として日銀による国債の引き受けが実施され、国債や円の信認低下により、急激や円安や金利上昇を引き起こすことで、ハイパー・インフレーションの瀬戸際まで追い込まれるような危機的状況となる可能性のほうがむしろ高い。ポアンカレの奇跡をひとつの教訓として、危機を回避する手立てを探ることが重要である。現在のように金利や為替が落ち着いており、危機が表面化していない時にこそ早めに手をつけるべきものである。

(富田俊基著「国債の歴史」東洋経済新報社より一部引用させていただきました)


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by nihonkokusai | 2011-03-04 08:40 | 国債 | Comments(0)
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