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特例公債法案が年度内に成立しなかったならば

 社民党は2011年度予算関連法案である特例公債法案について、反対する方向で調整に入ったと伝えられた。また、民主党の小沢氏に近い若手議員16人が、国会内の会派を離脱するとも伝えられた。これにより、特例公債法案などの予算関連法案の衆院再可決に必要な三分の二の議席に届かないという事態となる可能性が強まってきている。与党民主党内でも予算関連法案の成立と引き換えに菅直人首相の退陣やむなしとの声も出ている。

 特例公債法案を含めた予算関連法案が成立しなかった際の影響は十分に知った上で、それを人質にとって危険な賭けに出ているようにも見える。その結果がどうなるのかは政治の世界だけに読みづらいが、今回はもし特例公債法案が年度内に成立しなかった場合の政府の資金繰りについて考察したい。もちろん特例公債法案の成立そのものが成立しないという事態は想定できない。その場合には予算の財源そのものの裏付けがなくなることになり、事実上の債務不履行に陥る可能性すらあるためである。このため、あくまで年度内の成立がなかった場合の対応を想定する。

 国債には発行根拠法別に種類が分かれている。一般には新規国債と一括りで言われている国債は、建設国債と特例国債(赤字国債)に分けられる。財政法第四条に基づいて発行される建設国債は予算が通れば発行できる。しかし、特例国債(赤字国債)は、特例なので発行されるたびに特例公債法を制定しなければならない。

 特例国債は、建設国債の発行をしても歳入が不足すると見込まれる場合に、一般会計の財源不足を補うために発行される国債であり、主に社会保障、防衛費や人件費などの経常的経費を調達するために充てられている。しかし、人件費などの経常的経費は、将来世代に資産を残すことはなく、国債の元利償還のための租税負担というかたちでの費用負担だけを残すことになるため、財政法ではこのための国債発行は認めていない。そのために、特例法を制定して特例として発行している国債である。

 予算そのものは衆議院で議決されてしまえば、参議院の審議が終了しなくとも30日後には自動的に成立する。つまり、建設国債は予算が通れば発行できる。これは日本国憲法第60条2項に次のように定められているためである。「予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。」

 しかし、特例国債(赤字国債)は特例の国債であるため特例公債法が成立しなければ発行できない。特例公債法案などの予算関連法案は日本国憲法第59条にあるように、参議院で否決されれば、衆議院に差し戻され、そこで三分の二の賛成で可決されないと成立できない仕組みになっている。

 「平成23年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案」(http://www.mof.go.jp/houan/177/zk230124g.htm)についてが財務省のサイトにアップされているが、これによると特例公債法は、特例公債の発行と特別会計からの繰入れ等のその他特例的な歳入措置の根拠となるものとなり、平成23年度予算では一般会計予算92.4兆円のうち40.7兆円(このうち特例国債は38.2兆円)がカバーされる。つまり、特例公債法が成立しないと40.7兆円分は財源のあてが無くなってしまうことになる。その分の予算が執行できないという事態となる。

 仮に特例公債法案が3月末日までに成立しなかった際には、政府は資金繰りに苦慮することとなる。予算総額の92兆円のうちの50兆円分は賄えるため、相当期間は大丈夫ではないかとの見方もあろうが、年度始めにはあまり税収が入ってこないという問題がある。昨年度と今年度の4~6月期の税収(ネット)は11~12兆円程度に対しての対民間支出は20兆円程度になっている。ちなみにこの期間は前年度分の出納整理期間にあたるため、そのほとんどは前年度分であり、新年度分税収は6月末で2兆円程度に過ぎない。

参考
「平成21年度第1・四半期国庫の状況」http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211b.htm
「平成22年度第1・四半期国庫の状況」http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221b.htm
「平成22年度 6月末租税及び印紙収入、収入額調」http://www.mof.go.jp/zeisyu/h2206.htm

 昨年度と今年度の4~6月期には10~11兆円規模で国庫内での振替(一般会計から特別会計への繰入れ)が行われている。これはつまり出納整理期間での前年度の税収部分にあたる金額を特別会計に繰り入れている金額となる。

参考
財政資金収支分析表(平成21年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211g.htm
財政資金収支分析表(平成22年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221g.htm

 つまりこの期間に不足する金額は、対民間での支出超過分と国庫内の繰入れを加えた20兆円規模となり、この不足分を国債や財務省証券の発行などにより調達することとなる。このうち新規国債(建設国債と特例国債)による調達額は上記の財政資金収支分析表にある「資金調達・返済」に記載されている新発債発行の部分で金額は11兆円前後となっている。

 それでも足りない部分は財務省証券発行で補われ、それは上記の財政資金収支分析表にある「特別会計等」の「その他」の「資金調達・返済」にある財務省証券発行で21年度は20兆円以上の発行(11兆円は期間内に償還)、22年度は7.7兆円の発行(4.1兆円は期間内に償還)となっている。

ちなみにこの財務省証券(FBと呼ばれる政府短期証券の種類のひとつ)は限度額が設けられている。来年度予算ではその予算総則に、「財政法第7条3項の規定による財務省証券及び一時借入金の最高額は20兆円とする」とあるが財務省証券の残高は下記のように昨年度は6月末の9.5兆円となり限度額の約半分近になっている。また、今年度は3.6兆円となっている。

参考
平成23年度度一般会計予算(予算総則の7ページ) http://www.bb.mof.go.jp/server/2011/dlpdf/DL201111001.pdf
政府短期証券増減及び現在高表(平成21年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h21/h211h.htm
政府短期証券増減及び現在高表(平成22年度第1・四半期国庫の状況報告書)http://www.mof.go.jp/jouhou/sonota/kokko/h22/h221h.htm

 さらに特例国債が発行できないとなれば、新規国債(建設国債と特例国債)による調達額は建設国債の分、つまり来年度では6兆円程度しかできないため、11兆円前後のうち残りの5兆円程度は財務省証券の発行で補う必要がある。

 昨年度(平成21年度)のように、6月末までに不足する金額10兆円程度を財務省証券発行で補い、さらに特例国債が発行できない分も5兆円規模の財務省証券発行が補うとすれば、15兆円規模となり、残りの限度額は5兆円程度しかない可能性も出てくる。ちなみに予算総則にある20兆円という上限は、財務省証券と一時借入金を合わせた一般会計の資金繰りの上限であり、他にやりくりする手段はない。

 ロイターによると「6月までの必要経費は賄えるが、それ以降は厳しい」との財務省からの声も出ていたようだが、それはこの試算からも明らかである。つまり、6月あたりまでに特例公債法が成立しなければ、その後、必要経費が賄えなくなる事態が発生する可能性が高まることになる。これは他の予算関連法案の成立ができなくなることを含めて、国民生活に支障をきたす可能性がある。さらに、もし予算の半分程度が執行できなくなるという可能性があるとなれば、年度契約を結んでいるような支払いに対して、一括ではなく分割契約に変更しなければならなくなるなどの契約の見直しの必要性なども出てくるため、予算執行のコントロールなども難しい対応を迫られることになる。

 このように特例公債法案が年度内に成立しなかった場合は、6月末あたりまでは資金のやり繰りは可能と思われるが、その先はかなり厳しい状況になる上、契約などの問題を含めて各所に影響が出てくる可能性がある。


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by nihonkokusai | 2011-02-19 12:33 | 国債 | Comments(0)
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