個人向け国債販売に見る銀行と証券の違いなど
財務省のサイトに国債トップリテーラー会議(第8回)配付資料がアップされており、この中の「最近の販売状況について」のデータがなかなか興味深い。
最初にあるのが、1月17日現在における個人向け国債の償還予定額(平成23年)である。1月に1兆387億円、4月に9157億円、7月に1兆1717億円、10月に8126億円となっている。途中売却の可能性はあるものの、今年は4兆円近く(3兆9387億円)もの個人向け国債が償還される見込みで、その資金の行き先も注目されている。
今回はそれとともに「個人向け国債の銘柄別販売割合」などにも注目してみたい。明らかに証券会社と預金取扱機関(銀行)に違いがあった。
かなり昔になるが、私が出演させていただいたNHKの番組で、個人向け国債は10年変動金利タイプが良いか5年固定金利タイプが良いのかというのを解説させていただいた。クワバタオハラさんがそれぞれの良い点悪い点を比較して、一般のご夫婦に決定してもらうというものであった。この際は結局、5年固定が良いという結果となったが、中立であるはずの私はどちらかというと10年変動を推していた。
結論から言えば販売額そのものを見る限り、圧倒的に5年固定が優っていた。しかしこれを証券と銀行に分けてみると、意外にも証券では10年変動の割合が高いことがわかる。さすがにその割合は減少しつつあるとはいえ、今年1月でもまだ3割近くとなり、銀行の約1割に比べて割合が大きい。
これは何が要因なのであろうか。証券会社の顧客層はそれなりに投資知識もあり、今後の金利上昇も意識しているということなのであろうか。また、銀行の顧客はより安全志向であり、あくまで預貯金との兼ね合いで期間のなるべく短い固定利付きのものを選択していたのであろうか。
この資料には個人向け国債の年代別販売状況もあり、これを見ると10年変動は40歳台が最も多いのに対して、5年固定は60歳台、3年固定は70歳台が最も多い。40歳台主体の現役世代は現在の経済物価、日本の財政事情などを考えて、固定金利よりも変動金利を選択しているのであろうか。
個人向け国債の投資家は高年齢層が多いのは、日本の個人の金融資産がその年代に集中していることからも当然ではある。高年齢層はその年代の高さゆえ、あまり期間の長いものを選択していないとの見方もある。しかし、件数そのものは少ないものの10年変動の1件あたりの平均販売額は80歳台が800万円に迫っているなど(5年固定は同年代400万円台)、どうも老い先を考えて期間の短いものを選択しているだけとは言い難い面もある。
ある程度投資経験がある高年齢層の一部には、期間そのものよりも今後の金利上昇を意識している人がある程度存在しているのであろうか。ただし、これには80歳台といった高年齢層には証券会社の店頭でリスク商品は勧めづらいことなども関係している可能性もある。贈与なども想定した上で、発行から1年経過すれば額面で売却できることで、10年変動タイプの個人向け国債を購入した投資家もいたのかもしれない。
ちなみに今年償還を迎えるのは5年固定タイプのものである。その購入の中心年代は60歳台主体が主体となっている。「個人向け国債の業態別販売割合」から見ても、今回の個人向け国債の購入元は銀行の割合が高いと思われる。そして、元の資金は退職金などが想定されることで、あまりその資金をリスク商品には傾けづらいはずである。ただし、個人向け国債の購入時よりも条件の悪いものには手が出しづらく、難しい選択に迫られているのではなかろうか。
このため、やや商品性の異なる投資信託などへの流出は一部となり、今後の金利上昇のタイミングを狙っての待機資金として、買い付けた銀行の普通預金などにとどまる可能性が高いのでないかと思われる。
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