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「フラッシュ・クラッシュ再考」

今年もあと1か月あまりを残すこととなったが、今年のマーケットを振り返るにあたり、5月6日の「フラッシュ・クラッシュ」も今年注目すべきマーケットの出来事のひとつであった。本日、都内での西村日銀副総裁の講演「電子取引と金融市場」において、フラッシュ・クラッシュについて触れているが、その前にフラッシュ・クラッシュとは何であったのかを再確認してみたい。

今年5月6日、米国株式市場はダウで一時前日比1000ドル近くまで下落し、ザラ場中での過去最大の下げ幅となった。しかし、この下げは一時的なものであり、その後、急回復した。もう少し具体的に見ると、この日の午後2時40分過ぎ頃、ダウ平均は5分間程度で600ドル近く下落し、一時前日比で995.55ドルも下げた。しかし、その後わずか1分間程度で下げ分のほとんどを取り返すなど、過去に例のみない乱高下が起こったのである。これは、フラッシュのように一瞬で株価が急落したことで「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれた。

ニューヨーク証券取引所などでは、結局、2時40分以降で最新の価格から60%以上下げた約定を全て取り消すと発表した。その数は2万件以上となったようである。

これは当初、システム取引による誤発注とみられたが、米国の商品先物取引委員会と証券取引委員会による調査によると、アルゴリズムによる1つの大口売り注文の自動執行が他のアルゴリズムを混乱させたと指摘された。つまり、市場参加者の多くが、買い注文の執行を見合わせた結果、市場流動性が急減するとともに、異例なほどの価格の乱高下を引き起こしたと分析されたのである。また、アルゴリズムによる裁定取引がその影響を拡大させ、幅広い銘柄で価格の瞬落を招いたとされている(西村日銀副総裁講演より)。

西村日銀副総裁は、「アルゴリズム取引が平時に市場の安定に寄与する可能性があるといっても、それは想定外の出来事や未知の不確実性が顕在化していない状況に限られます。機械的なアルゴリズムは、想定外で前例のない出来事に対して、良識を持った人間のように適切に対応できるわけではないでしょう。」と指摘している。

ただし、こういった事故を防ぐにはアルゴリズム取引で想定外の動きの兆候が出た際に機械的に探知し取引を中断させ、人間の手で想定外の動きの原因を探る必要がある。そのためには高速なアルゴリズム取引を前提としたサーキット・ブレーカーなどの制度化をより進める必要がある。

西村日銀副総裁はまた、フラッシュ・クラッシュの共同報告書の背後にある研究論文で、興味深い事実を発見したことを指摘している。

「同論文は、価格急落の終盤にかけて流動性が急減する中で、一部の高頻度取引業者が売買を活発化したと指摘しています。これは、流動性が急減した市場、すなわち平時に高頻度取引業者の取引相手となる市場参加者が不在となった市場において、こうした高頻度取引業者の間でアルゴリズムによる機械的な高速売買が繰り返されたことを示唆しています。こうした状況は、ごく短い時間に価格のボラティリティを高めたと考えられます。」

つまりこれはコンピュータによるプログラム取引の暴走とも言えるものであったとの指摘であろう。

高頻度取引業者以外の市場参加者の需給が大きく偏る中では、高頻度取引によって供給される短時間の流動性だけでその偏りを均すことは非常に困難となり、高頻度取引業者は、市場のファンダメンタルズではなく、むしろ微小な価格変化の方向性に応じて売買するため、仮に需給の不均衡がある中で、そうした機械的なトレーダーが市場の大勢を占めた場合には、市場価格がファンダメンタルズから急速に乖離していく可能性があり、フラッシュ・クラッシュは、これを示す顕著な例といえると西村副総裁は指摘している。

流動性供給という意味では、短時間で売り買いを繰り返す投機的な動きをする参加者はある意味不可欠である。必要悪とも言えるかもしれない。私も債券ディーラー時代は先物を主体に頻度の高い売買を行ってきた経験があるため、その存在は必要であるとの認識である。ただし、これをいま機械が行っているという事実には、多少なり不安も覚える。しかも、取引所のシステムはまさにこういったアルゴリズムによる取引を円滑に行える方向に整備が進んでいることも、個人的には憂慮すべきことではないかと思っている。相場は機械ではなく人が作るものであるという基本的なことが忘れ去られつつあるように思われるためである。
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by nihonkokusai | 2010-11-30 08:37 | 投資 | Comments(0)
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