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「財政再建の勧め」

格付会社スタンダード&プアーズ(S&P)は26日に、現在AAA格の英国の格付けの見通しを「ネガティブ」から「安定的」に変更した。S&Pは積極的な歳出削減措置を実施する英政府の決意を評価したとしている

金融危機への対応やその後の景気対策により、英国の財政赤字は今年1550億ポンド(約19兆8千億円)に膨らんだ。政府債務残高は2~3年後に9千億ポンド(約114兆9千億円)、国内総生産(GDP)の70%に達する見通しも出ている。

英国のオズボーン財務相はこの3か月もの間、各閣僚と協議を続け、10月20日に財政再建のため各省庁の歳出を最大で40%減らす「包括的歳出見直し」を公表した。これは「英国の歴史始まって以来」の大きな財政削減案と言える大胆なものである。2015年までに830億ポンド(約10兆6千億円)の赤字を削減する。192の特殊法人を廃止し、公的部門600万人中、49万人の人員を減らす。各省庁への削減は平均19%となるようだが、協議の途中、フォックス国防相がキャメロン首相に「国の安全をおざなりにできない」と直訴する騒ぎも起きたそうである(産経新聞)。

景気回復への影響を懸念する声もあるが、膨大な財政赤字が長期的に経済成長の妨げになるとして、国営医療制度(NHS)と途上国援助を除き各省庁の歳出が見直された。

労働党政権下で増殖した特殊法人についても192法人は不要不急として廃止を決めるなど、英国の事業仕分けは大胆かつ迅速に行われるようである。

削減幅が小さくて済んだのは教育省で管理費を1%減らすが、連立を組む自由民主党の政策を取り入れ、貧困児童への授業料補助を新設するなど教育現場への支出は拡充する。ノーベル賞受賞者を輩出する英国の研究能力は経済成長の将来のエンジンとして、科学予算は名目上維持する。

国防省は8%削減で人員は計4万2千人減。核ミサイル原子力潜水艦の退役を4年間先延ばしした。大なたがふるわれたのは法務省で23%削減。内務省も警察の効率化に取り組む。片方の親の年収が4万3875ポンド(約560万円)を超える家庭への子供手当の打ち切りや、財政的な余裕があるのに受給している就労不能給付にもメスを入れる(以上、産経新聞)。

財政再建で成功した例としては、1990年代でのカナダでの事例がある(以下、拙著「国債の基本とカラクリが良くわかる本」より)。

カナダの財政赤字は1970年代以降、景気低迷の中での歳出拡大、それに伴う国債費増大などにより大幅なものとなり、累積債務残高も急速に増加した。累積債務残高の対GDP比で、1991年度以降、カナダはG7各国の中でイタリアに次いで高い水準となっていた。

このため財政再建が重要課題となり、本格的に財政再建に取り組み始めたのが1993年11月に発足したクレティエン政権であった。同政権では財政赤字削減のために閣僚級のメンバーからなる特別委員会を設置し選挙公約である「3年以内に財政赤字の対GDP比を3%以内に抑える」という目標をもとに財政の立て直しを進めた。その結果、1994年度以降、財政再建は強力に進められ1997年度以降は単年度ベースで財政黒字を計上したのである。

クレティエン政権はプログラム・レビュー(Program Review Tests)を導入し、6つの基準を設定し、これに基づいて全ての既存政策について徹底した見直しを実施した。その6つの基準とは、国民に求められているのかという公共の利益の基準、政府が提供すべきなのかという政府の役割」の基準、連邦政府に適切な仕事なのか州政府の仕事なのかの基準、民間に任せることはできないのかという民営化の基準、効率を上げることはできないのかという効率性の基準、 その結果残った仕事についての費用負担の適切さの基準である。

州への交付金や州との権限関係の見直し、失業保険制度や年金制度の改革、産業補助金の削減、政府企業の民営化やエージェンシー(外局)化、連邦公務員の削減、内閣組織の簡素・効率化などが積極的にすすめられ、各省庁の予算を1994年度から4年間で平均22%も削減した。

歳入についても大規模法人税の税率引上げ、付加法人税の税率引上げ等が実施されたものの、カナダでの財政再建は主に歳出削減により進められていった。ただし、財政再建を進めた時期に、米国経済の回復によりその影響を受けやすいカナダ経済が回復したことも、カナダの財政再建を支えた要因として指摘されたが、カナダの経済に対する信任が国内外で厳しく問われたことで、そうした危機感が国民に共有されたことが、カナダの財政再建を成功させた大きな原動力になったことも確かである。

緊縮財政には経済成長を促す効果があると主張する学者もいる。ハーバード大学のイタリア人経済学者アルベルト・アレシナ教授である。また、増税を含めた財政再建と景気回復を同時に進めることを日本の菅首相が主張したことで物議を醸したこともある。

膨大な財政赤字が長期的に経済成長の妨げになることは確かであり、これは日本の事例を見ても明らかであり、緊縮財政にはいずれ経済成長を促す効果があるとみてしかるべきであろう。ただし、これにはタイミングも重要である。カナダの例では米国の景気回復が緩衝材の役割となり、今回の英国でも26日に発表された第3四半期(7-9月)GDPが予想を上回り、リセッションに落ち込む可能性があるとの懸念が後退していることが、財政再建を後押しさせるであろう。日本でも2000年代に小泉政権下で一時的に財政再建路線が取られたが、この際にも景気回復が後押しさせた面がある。

ただし、日本での財政再建はタイミングを見計らうほどの余裕はすでにない。日本の累積債務は膨らむ一方であり、いつそれが破裂するのかは破裂してみないとわからない状態にある。英国での財政再建は現在の日本にとっても良きモデルとなるはずである。景気回復の妨げとの懸念などよりも、積極的な歳出削減により財政再建を進め、将来の国民の不安を取り除くことこそが今は最重要である。
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by nihonkokusai | 2010-10-27 11:11 | 国債 | Comments(0)
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