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「時間軸の設定はさほど強固なものでない可能性も」

日銀は2001年3月に決定した量的緩和政策を、全国消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年同月比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けるとした。2003年10月には量的緩和政策継続のコミットメントをさらに明確化した。

具体的には「消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上」という条件について、第一に直近公表の消費者物価指数の前年比上昇率が単月でゼロ%以上となるだけでなく、基調的な動きとしてゼロ%以上であると判断できること(具体的には数ヶ月均してみて確認)、第二に消費者物価指数の前年比上昇率が先行きについても再びマイナスとなると見込まれない、日銀政策委員の多くが「展望レポート」における記述や政策委員の見通し等により、見通し期間において、消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%を超える見通しを有していること、さらに、これらが満たされても、経済・物価情勢によっては、量的緩和政策を継続することが適当であると判断する場合もあることを明らかにしたのである。

これに対して、2010年10月5日に日銀の金融政策決定会合にて決定した包括緩和政策においては、「中長期的な物価安定の理解」に基づき、物価の安定が展望できる情勢になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続していくとしたのである。ただし、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し、問題が生じていないことを条件とした。

「中長期的な物価安定の理解」とは2006年3月に導入されたものであり、「金融政策運営に当たり、各政策委員が中長期的にみて物価が安定していると理解する物価上昇率」である。これは2009年12月18日の決定会合においてさらに明確化され「消費者物価指数の前年比で2%以下のプラスの領域にあり、委員の大勢は1%程度を中心と考えている。」としている。つまり中心は1%程度となる。

包括緩和政策によるゼロ金利政策の解除条件に関し、白川日銀総裁は10月5日の会見で次のように語っている。「こうした枠組みは、インフレーション・ターゲティングの長所と呼ばれるものを最大限取りこんだ上で、インフレーション・ターゲティングの短所と言われている物価以外の要素に対する配慮が行き届かないというところにも十分目配りをした」

今回の包括緩和策において、ゼロ金利解除の条件を中長期的な物価安定の理解(コアCPIの1%程度)に基づくものとしたことにより、前回の量的緩和政策の解除条件(基調的な動きとしてゼロ%以上)よりもハードルを高くしたと認識された。これはかなり強固な時間軸の設定と受け止められたのである。

しかし、前回の量的緩和解除には「消費者物価指数の前年比上昇率が先行きについても再びマイナスとなると見込まれない」などかなりの足かせをはめていたことに対し、今回のゼロ金利解除の条件は数字上は確かにハードルは引き上げられてはいるが、金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検し問題が生じていないことを条件とするなど逃げ道も作られている。

さらに西村副総裁は20日の広島県での講演で、以下のように述べている。

「先日の決定会合では中長期的にみてこの物価上昇率が見通せる状況になったと判断するまで、実質ゼロ金利政策を継続することを確認しました。ここで強調させて頂きたいことは、日本銀行は足もとの物価上昇率ではなく先行きに想定される物価上昇率の動きが、中長期的な物価安定の理解と整合的かを判断基準としているということです。」

前回の量的緩和解除の条件は足元のCPIの数字を使っていたのに対し、今回の解除の条件は「先行きに想定される物価上昇率の動き」としていたのである。日銀のサイトにアップされた西村副総裁の講演の要旨には、これについて次のような脚注があった。「これは、予測、英語でいえばフォーキャストですが、これが目標値に達するかどうかを判断基準とする「フォーキャスト・ターゲッティング」と呼ばれる考え方に近いといえます。」

白川総裁は5日の会見で、中長期的な物価安定の理解に関して次のようにも発言していた。「機械的な公式があり、この公式で金融政策が運営できるのであれば、そもそも中央銀行はいらないわけです。」

白川総裁と西村副総裁の発言内容からみる限り、今回のゼロ金利政策の解除についてはかなり裁量余地があるようである。西村副総裁は世界的な信用バブルの生成・崩壊において、金融面での不均衡の蓄積といった重大なリスクが見過ごされた結果、長い目でみた経済・物価の安定が損なわれた経験から学ぶことも大事と指摘したが、今回の包括緩和政策では量的緩和や信用緩和とともに、強力な時間軸の設定がバブル形成に繋がるリスクも配慮し、そのような気配が生じた際には、「機械的」にではなく「機動的」にゼロ金利政策の解除がありうることを示したものと思われる。

今後の消費者物価指数について見てみると、来年8月に発表される2011年7月分から基準年が2005年から2010年に変更される。前回の基準年の変更の際には0.5%の下方修正が行われたが、今回も0.3%から0.4%程度の下方シフトが起きる可能性が予想されている。また、来年の10月からは今年のタバコの増税によるプラス寄与が剥落してさらに0.2%下方シフトする見込みである。このため来年度のコアCPIはマイナスで推移する可能性が高い。足元コアCPIの1%超えによる機械的な解除は、少なくともあと数年は待たなければ難しいとみられているが、日銀はどうやらそれを待たずしてゼロ金利政策を解除する可能性を残していると思われる。
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by nihonkokusai | 2010-10-21 18:15 | 日銀 | Comments(0)
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